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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
二杯目の紅茶を淹れてもらいながら、薫は尋ねた。
「…先輩は、どうしてここに?
確か東京音楽大学に進学されましたよね?」
紳一郎はピアノが上手かった。
ミサや聖歌隊の合唱の伴奏はいつも紳一郎だった。
…礼拝堂のステンドグラス越し、眩い光を受けながらピアノを弾く紳一郎の美しい姿をふと思い出す…。
「…僕は去年からここの音楽教師をしている。
戦争で卒業が繰り上がったからな。
それから寄宿舎の舎監も…。
戦争中で親元に帰れなくなった生徒が幾人かいて…案外忙しいんだ」
「…へえ…優しくて後輩思いの先輩にぴったりな仕事ですね」
紳一郎がわざと睨む真似をする。
「嫌味か?」
「はい」
二人は同時に吹き出した。
しばらく笑い合いながら、こんなに無邪気に笑ったのは久しぶりだな…と思う。
「…本当はウィーン音楽大学に留学するつもりだったんだけど、戦争が激しくなって海外留学は禁止されてしまったからね。
仕方なく…さ。
とんだ番狂わせだ」
ため息を吐いてさらりとした髪を搔き上げる紳一郎に、薫は遠慮勝ちに尋ねた。
「…あの…森番の…あのひとは…?」
紳一郎の白い手が握りしめていたマグカップが僅かに揺れ、紅茶が波打った。
「…先輩は、どうしてここに?
確か東京音楽大学に進学されましたよね?」
紳一郎はピアノが上手かった。
ミサや聖歌隊の合唱の伴奏はいつも紳一郎だった。
…礼拝堂のステンドグラス越し、眩い光を受けながらピアノを弾く紳一郎の美しい姿をふと思い出す…。
「…僕は去年からここの音楽教師をしている。
戦争で卒業が繰り上がったからな。
それから寄宿舎の舎監も…。
戦争中で親元に帰れなくなった生徒が幾人かいて…案外忙しいんだ」
「…へえ…優しくて後輩思いの先輩にぴったりな仕事ですね」
紳一郎がわざと睨む真似をする。
「嫌味か?」
「はい」
二人は同時に吹き出した。
しばらく笑い合いながら、こんなに無邪気に笑ったのは久しぶりだな…と思う。
「…本当はウィーン音楽大学に留学するつもりだったんだけど、戦争が激しくなって海外留学は禁止されてしまったからね。
仕方なく…さ。
とんだ番狂わせだ」
ため息を吐いてさらりとした髪を搔き上げる紳一郎に、薫は遠慮勝ちに尋ねた。
「…あの…森番の…あのひとは…?」
紳一郎の白い手が握りしめていたマグカップが僅かに揺れ、紅茶が波打った。