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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「え⁈本当ですか⁉︎」
驚きの余り、薫は声を上げた。
「だって…十市さんは外国人でしょう?
外国人には赤紙は来ないはずじゃあ…」
紳一郎の白皙の美貌は揺らぎもしない。
しかし、その瞳は悲哀の色に満ち、苦しげに細められた。
「…十市は血筋はスペイン人だが、日本の国籍を取得している。
母親が日本人と再婚したからな。
だから戸籍は既に日本だ」
「…そうなんですか…」
「けれど、何とか外国人として登録し直せないかと、内務省に父様から極秘で掛け合ってもらった。
…今、東京にいる外国人は、山下町の抑留地に住まうことが義務付けられている。
十市と離れるのは辛いが、彼が戦地に行くより遥かにましだ。
日本にいるなら、戦争が終われば会える。
そう思って、ありとあらゆる手を尽くした」

…だけど…と、紳一郎が形の良い唇を噛み締めた。
「…十市の出生を知る人物を探し、証言を得るのは酷く困難だった。
何しろ、十市は幼い頃に生まれ故郷のギリシアを出てしまっていたからな…。
…必死に捜索を続け、ようやくひとりの老人を尋ね当てたと喜んだのも束の間…。
十市の元に、召集令状が来てしまったんだ」
…紳一郎は、絞り出すように言い放った。



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