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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…先輩…」
マグカップを握りしめる手は、青ざめて白く、微かに震えていた。
「…十市は英語もスペイン語も話せるし、銃器の扱いにも長けている。
加えてあの外見だ。
軍はきっと諜報活動要員として十市を召集したに違いない」
「…諜報…てスパイに?
そんな!」
「きっと危険な作戦に加担させられている。
…その証拠に、召集されてから一度も手紙が来ない。
他に召集された者たちの家族には時折、手紙が届いているらしいのに!
…十市は…十市は…どこに…!」
テーブルが強く叩かれ、マグカップの紅茶が溢れた。
紳一郎の喉元から悲鳴が迸る。
「先輩!」
薫は紳一郎を咄嗟に抱きしめた。
「大丈夫ですよ!あんな…森の巨人みたいにでかくてゴツいひと、米軍も裸足で逃げ出しますよ…!」
「…薫…」
紳一郎が声を詰まらせる。
「…逞しさとタフさでは僕のお母様と双璧を為しているもの。
…それに、十市さんが先輩を置いてゆくわけない。
あんなに先輩にめろめろな十市さんが、こんなくだらない戦争なんかで死んだりしないよ…!」
…そうだ。
死んだりしない。
十市も…暁人も…
絶対に…絶対に帰ってくる…。
「…生意気だぞ…お前…」
薫の腕の中で紳一郎がじろりと睨んでいた。
「す、すみません…」
慌てる薫に、紳一郎は小さく笑った。
柔らかな明るさを感じるその笑いに、薫はほっとする。
「…分かってるさ。僕の十市は死んだりしない。
必ず生きて帰ってくる」
…でも…
と、紳一郎は自分から薫に抱きつき、しっかりとした口調で告げた。
「…ありがとう、薫…」
マグカップを握りしめる手は、青ざめて白く、微かに震えていた。
「…十市は英語もスペイン語も話せるし、銃器の扱いにも長けている。
加えてあの外見だ。
軍はきっと諜報活動要員として十市を召集したに違いない」
「…諜報…てスパイに?
そんな!」
「きっと危険な作戦に加担させられている。
…その証拠に、召集されてから一度も手紙が来ない。
他に召集された者たちの家族には時折、手紙が届いているらしいのに!
…十市は…十市は…どこに…!」
テーブルが強く叩かれ、マグカップの紅茶が溢れた。
紳一郎の喉元から悲鳴が迸る。
「先輩!」
薫は紳一郎を咄嗟に抱きしめた。
「大丈夫ですよ!あんな…森の巨人みたいにでかくてゴツいひと、米軍も裸足で逃げ出しますよ…!」
「…薫…」
紳一郎が声を詰まらせる。
「…逞しさとタフさでは僕のお母様と双璧を為しているもの。
…それに、十市さんが先輩を置いてゆくわけない。
あんなに先輩にめろめろな十市さんが、こんなくだらない戦争なんかで死んだりしないよ…!」
…そうだ。
死んだりしない。
十市も…暁人も…
絶対に…絶対に帰ってくる…。
「…生意気だぞ…お前…」
薫の腕の中で紳一郎がじろりと睨んでいた。
「す、すみません…」
慌てる薫に、紳一郎は小さく笑った。
柔らかな明るさを感じるその笑いに、薫はほっとする。
「…分かってるさ。僕の十市は死んだりしない。
必ず生きて帰ってくる」
…でも…
と、紳一郎は自分から薫に抱きつき、しっかりとした口調で告げた。
「…ありがとう、薫…」