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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
…礼也の男盛りの美丈夫ぶりは、息子の薫から見ても眼を見張るほどであった。
白いものが少しだけ混ざり始めた髪は、豊かできちんと撫で付けられている。
男らしく引き締まった端正な…そして気高く朗らかな雰囲気を漂わせている貌立ち…。
身に纏った濃灰色のスーツは、この物不足の激しい昨今、なぜこんなに贅沢な生地を使用し仕立てられるのか不思議なほどに洒落ていて…尚且つ品位を漂わせている。
街を歩けば燻んだ色合いの国民服かカーキ色の陰鬱な軍服しか目にできない今、礼也のさながら欧州の名だたる貴族の紳士のような服装は別世界の住人のようだ。

「理由をきちんと述べて私たちを納得させてごらん。
話はそれからだ」
「礼也さん…!」
光の抗議の声を眼差しで止め、礼也は薫の返答を待った。

薫は形の良い薄紅色の唇をきゅっと引き結ぶと、ゆっくりと…しかしはっきりした声で答えた。
「…暁人をここで、待ちたいんです」
テーブルの一同は、息を呑んだ。

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