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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…なぜ暁人くんは士官学校なんか志したんだ?
彼は軍国少年だったのか?」
やや冷めた言葉に、薫はびくりとする。
「…違います」
「しかし自分から進んで志願するなんて…。
…僕は彼は彼のお父上のようにリベラルな平和主義者だと思っていたよ。
はっきり言って失望したね」
冷たく突き放すように言われ、薫は反射的に立ち上がり叫んだ。
「違います!
暁人はそんなんじゃありません!
暁人は誰よりも優しくて誰よりも広い視野を持っているんです!
士官学校に入学したのは、この戦争を早く終わらせるためなんです!」

紳一郎が驚いたように切れ長の瞳を見開く。
「暁人は言ったんです。
恵まれた環境の中で足掻いていても仕方ない。
自分は軍隊の中に入って中から変革をしたい。
そうしてこの下らない戦争を一日も早く終わらせたい。
…薫のために…薫がこれからもずっと我儘を言ったり怒ったり…それから…笑っていられるように…て…。
…そのために…暁人は…士官学校に…」
涙が溢れて何も見えない。
熱く哀しく遣る瀬無い思いの塊が喉元にせり上がる。
苦しく切なくどうしようもない衝動に襲われる。

わあわあ泣き出した薫のそばに紳一郎が近づく。
「泣くな。薫」
「…だって…だって…暁人は…!」
しゃくりあげながら言葉を繋ごうとする。
「…あ、暁人は…誰よりも強くて優しいんです…。
僕みたいに臆病で自分勝手じゃなくて…本当にすごいやつなんです…」

紳一郎のしなやかで温かい腕に包み込まれる。
その手が優しく号泣する薫の背中を撫でる。
宥めるような温かな声が聞こえる。
「分かった…分かったから泣くな…。
僕が悪かったよ。
…そうだな…。暁人は立派だ。
そして崇高で美しい…。
…お前の恋人は、素晴らしいひとだ…」
「…先輩…」
見上げる薫の涙に濡れた瞳に、慈しみに溢れた紳一郎の微笑みが映った。
「…僕の十市には負けるけどな」
「…え〜?」
不服そうに唇を尖らせる薫を可笑しそうに笑う。
手巾で涙を拭いてやり、
「洟をかめ。幼稚園児か」
と、揶揄った。
薫がむっとしながら音を立てて洟をかんでいると…

…不意に、礼拝堂の扉を激しく叩く音が響き渡った。
二人は同時に振り返る。
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