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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「鷹司様…!」
泉は素早く立ち上がる。

「ご機嫌よう。
君の大切なやんちゃなお姫様は無事さ。
相変わらずの無鉄砲ぶりだけどね。
…君も大変だなあ…」
若干の同情の眼差しで紳一郎が笑いかける。

「鷹司様。初めてお目にかかります。
縣家の執事の月城泉と申します。
この度は薫様の窮地をお救いくださったとのこと、誠にありがとうございます。
心より感謝申し上げます」
こんな状況でも決して慌てずに恭しく優雅なお辞儀と挨拶をするのは、さすがだ。

泉も外套の下は戦前と同じ執事の制服だ。
美しいものを愛し大切にする礼也は、粗雑な国民服を何より嫌った。
使用人達には皆、戦前と変わらない制服で仕事をさせていた。
当然それは目立ち、評判となった。

憲兵隊の厳しい注意喚起と恫喝は、光がけんもほろろに跳ね返した。
美しい眉を跳ね上げ、厳しい憲兵たちにたじろぐこともなく言い放ったのだ。
「…貴方たち、こんなくだらない暇があったらもっとお国の為に役立つことをなさったらどうなの?
我が家は炭鉱業で軍に感謝状を頂きたいくらいの貢献をしているのよ。
…戦前と同じスタイルで過ごしているくらいで目くじらを立てるなら、わたくしが今から炭鉱を閉鎖しに行きますからね!
偉い方にそう申し上げておいて!ご機嫌よう!」

…翌日から憲兵隊は、ぴたりと来なくなった。



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