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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「薫様、鷹司様によくお礼を…。
…メイリンも心配しております。早く帰りましょう」
過保護な泉は自分の外套を薫に着せかけて、帰宅を促す。
「…うん…」
確かにもう帰宅した方が良い。
紳一郎にもやることはたくさんあるだろう。
礼を述べようとした薫に、紳一郎が腕組みをしたまま、さらりと口を開いた。
「薫、頼みがある」
紳一郎の頼みなど、初めてだ。
「何ですか?僕にできることなら…」
「ここの仕事を手伝ってほしい」
「…え?」
薫は大きな瞳を見張った。
泉が紳一郎を振り返る。
「大学は休校だろう?
学院の高等部はまだ授業を細々とやっていてね。
…教師たちはかなり軍隊に取られてしまったから、短縮授業が多いんだけど…。
けれど手が足りないんだ。
僕も音楽以外に国語や英語、数学や物理まで教えている。
英語は敵国語だと政府は良い顔をしないが、幸い学院長はリベラルな方だからそのまま続行している。
…戦争が終わったあとの生徒たちの将来を慮ってだよ」
薫は慌てて首を振った。
「む、無理ですよ!僕、落第寸前で卒業して、大学も母様のゴリ押しでなんとか入ったくらいなんですから…!」
紳一郎の愉快そうな笑い声が礼拝堂に響き渡る。
「誰もお前に教科を担任してくれとは言ってないよ。
…僕の仕事の助手と舎監の仕事を手伝ってほしいんだ。
寄宿舎はとにかく手が足りない。
…生徒たちはこの戦時下でとても不安がって神経質になっている。
同年代の薫がいてくれたら心強いんだ」
…メイリンも心配しております。早く帰りましょう」
過保護な泉は自分の外套を薫に着せかけて、帰宅を促す。
「…うん…」
確かにもう帰宅した方が良い。
紳一郎にもやることはたくさんあるだろう。
礼を述べようとした薫に、紳一郎が腕組みをしたまま、さらりと口を開いた。
「薫、頼みがある」
紳一郎の頼みなど、初めてだ。
「何ですか?僕にできることなら…」
「ここの仕事を手伝ってほしい」
「…え?」
薫は大きな瞳を見張った。
泉が紳一郎を振り返る。
「大学は休校だろう?
学院の高等部はまだ授業を細々とやっていてね。
…教師たちはかなり軍隊に取られてしまったから、短縮授業が多いんだけど…。
けれど手が足りないんだ。
僕も音楽以外に国語や英語、数学や物理まで教えている。
英語は敵国語だと政府は良い顔をしないが、幸い学院長はリベラルな方だからそのまま続行している。
…戦争が終わったあとの生徒たちの将来を慮ってだよ」
薫は慌てて首を振った。
「む、無理ですよ!僕、落第寸前で卒業して、大学も母様のゴリ押しでなんとか入ったくらいなんですから…!」
紳一郎の愉快そうな笑い声が礼拝堂に響き渡る。
「誰もお前に教科を担任してくれとは言ってないよ。
…僕の仕事の助手と舎監の仕事を手伝ってほしいんだ。
寄宿舎はとにかく手が足りない。
…生徒たちはこの戦時下でとても不安がって神経質になっている。
同年代の薫がいてくれたら心強いんだ」