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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
…紳一郎が語った瑞葉の話しは、薫を暫く無言にさせるほどにショッキングなものであった。

…篠宮瑞葉は、産まれながらにその人目を惹く混じり気のない西洋人のような容姿から篠宮伯爵家ではその存在を秘密裏にされていた。
つまり…産まれてこのかたずっと屋敷の中で軟禁状態にあったのだ。
だから、外部の人間は篠宮家の子どもは一人だと認識していた。
…瑞葉の弟、和葉が篠宮家の後継者として社交界でもお披露目され、知られていたのだ。

薫も何度か篠宮家のお茶会や夜会に招待され、訪れたことがある。
その時に挨拶し、言葉を交わしたのは和葉だけだ。
和葉は海軍士官学校に進学していて、暁人の先輩に当たる。
暁人は
「成績優秀で人望も厚くて素晴らしい先輩だよ。
…それに、とても綺麗だし…。
篠宮先輩は誰より目立つ見習い士官なんだ」
と、評していた。
…だから少し面白くなかった。

けれど夜会で和葉を紹介された時、間近に見て納得した。
…やや明るめの琥珀色の髪、同じ色合いの美しい瞳…。
端麗な目鼻立ち、すらりとした長身、小さな頭、長くしなやかな手足は驚くほどに日本人離れしていた。

見惚れる薫の心の内を察したのか、握手をしながら和葉は快活に笑った。
「お祖母様がドイツ人とのハーフでね。
隔世遺伝で僕にはその血が濃く出たらしい。
…イギリス人とのハーフじゃなくて良かったよ。
軍隊に入れなかったからね」
屈託のない笑顔は明るく眩しく…まるで太陽のように人を惹きつけるような温かな魅力に満ちていた。

…あの和葉さんに、お兄様がいらしたのか…。
しかも…こんなに…
思わず目の前の瑞葉をまじまじと見つめてしまう。

その視線を受け、哀しげにその長く濃い薄茶色の睫毛を伏せ、瑞葉は口を開いた。
…その内容は、再び薫を驚愕させたのだ。

「…僕は…和葉と違って、篠宮の父の子どもではないのだと思います」


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