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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「瑞葉さんには何の罪もないのに!」
瑞葉は薫を見上げ、寂しげに微笑った。
「…ありがとう…。薫さんは、優しい方ですね」
諦観めいた言葉にも、胸が締め付けられる。
憂いを秘めた貌はぞっとするほどに美しかった。

「…形ばかりの夫婦など、貴族の世界ではよくあることだ。
夫はもちろん妻が不貞を働くことも珍しくはない。
貴族にとって大切なのは、その体面と体裁を保つことだけだからね」
紳一郎の淡々とした言葉が響いた。
薫は息を呑んだ。
「…僕の母も、似たようなものだ。
…いや、堂々と愛人たちを社交場に連れて行くのだからもっとふてぶてしいさ」
形の良い唇を歪めて、紳一郎が笑った。

…紳一郎の母は凄絶な絶世の美女だが自由奔放な艶福家で知られていた。
名門の公爵夫人とはとても思えぬほどに、その行動は派手で…ある意味常軌を逸していた。
紳一郎はだから実母を嫌っているし、その口からは多くを語ろうとしなかった。

…今日も、すぐに首を振り忌まわしげに話を切り上げた。

「…瑞葉さんのことに話を戻そう。
以前話したが、外国人抑留地移住条例を知っているだろう?
瑞葉さんのお祖母様…篠宮薫子様がそれに乗じて瑞葉さんを抑留地に移そうと動かれていたんだ。
これを機に篠宮伯爵家から瑞葉さんを追い出そうとしたのだろう。
…自分の手を汚すのは嫌だが、政府の対策ならば法律を遵守したで済むからな。
全く、非情な方だよ」
「…そんな…」
…厄介払いをするかのように、自分から告発するなんて!
薫は唖然とした。
「だって、瑞葉さんは外国人じゃないのに!」
紳一郎は哀しげな表情で暖炉を見つめる瑞葉を見遣り、肩を竦めた。
「けれど瑞葉さんの際立ったこの容姿ではそれも通じないだろう。
ご両親は薫子様の言うなりだしね。
そうこうしているうちに移住期限は迫る。
…そんな時に瑞葉さんの執事から相談を受けた青山さんが僕に話が持ってきたんだ」

「…青山さん…て、あの美術商の?」
聞き覚えのある名前だった。
…確か…

「そう。青山史朗さん」

パリとロンドンで画廊を経営する腕利きの画商であり美術品コレクターである青山史朗は、上流階級では広く知られた名であった。

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