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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
革の手袋を嵌めた男の大きな手が瑞葉の白く小さな顔を引き寄せ、唇を重ねた。
口づけは甘やかに始まり…濃密さを増してゆく。

…どう見ても、これは恋人同士のキスだ。
薫は驚き、紳一郎に視線を巡らせたが、彼はこのことに慣れているのか表情ひとつ変えなかった。

…彼は誰なのだろう…。
黒い外套や黒革のブーツは地味なデザインではあるが上質なものだ。
しかしその言葉遣いや態度は、明らかに主人に対するものだった。
…とすると彼は…。

切な気に口づけを繰り返す二人をそっと見つめる。
思わず目を奪われるのは、瑞葉のその艶めいた美しさだ。
…儚気な花のような美貌…エメラルドに輝く瞳…長く美しい艶やかな蜂蜜色の髪…白いクラシカルなドレス…。
まさに童話のラプンツェルだ。
けれどラプンツェルに口づけするのは、王子…というよりも魔界の禍々しいまでに美しい異端の王に見える…。
どこか歪な退廃的なお伽話から抜け出てきたかのような二人に、薫は魂を抜かれたように立ち竦む。

…二人は、紳一郎や薫の存在など気にもかけていないようだ。
長く甘い口づけが終わり、熱く蕩けるように見つめ合う。
「…八雲…会いたかった…。
ここ数日は来てくれなかったから…」
潤んだ美しいエメラルドの瞳が、男を見上げる。
「申し訳ありません。
お屋敷の仕事が立て込んでおりまして、夜になかなか抜け出せなかったのです」
愛おし気に瑞葉の美しい髪を梳き上げながら、男は答える。

咳払いをしながら、紳一郎が口を開く。
「失礼。…八雲さん。
私の後輩を紹介いたします。
彼にはこれから私が不在の時に、瑞葉さんのお世話を担当してもらいます」
紳一郎の声に、男が初めて薫に視線を巡らせた。


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