この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…あの…なんなんですか?
あの二人は…恋人同士なんですか?」
塔の階段を降りながら、薫は紳一郎に尋ねる。
「聞くだけ野暮だろう?そんなこと」
振り返って笑う紳一郎の白く涼しげな美貌には艶めいた色が浮かぶ。
ランプの灯りが揺らめき、古びた煉瓦の壁に二人の影をゆらりと映した。
「…執事と主人の道ならぬ恋…。
まったく…。ぞっとするほどに美しいあの二人にお似合いの醜聞じゃないか。
…なんだか訳ありだけれど、まあ人には色々事情があるものさ」
「紳一郎さん!」
前を向き、紳一郎は靴音を響かせながら滑るように階段を降りる。
「…別にどんな爛れた恋をしようとどうでもいい。
僕は青山様に頼まれて、瑞葉さんを匿っているだけだ。
瑞葉さんには同情せざるを得ない部分もあるしね。
…あの執事は食料や物資が益々乏しくなる昨今、どこから調達してくるのか分からないが、驚くような豊かな食料や嗜好品や贅沢品を瑞葉さんのために切らさずに持ってくる。
上等なパン、バター、チーズ、ハム、新鮮な野菜や果物に牛乳…蜂蜜やワインやチョコレート、キャンディ…。
舶来の石鹸、香油、古めかしいが仕立ての良い衣服…女物ばかりだけどな。
それから灯油に炭、羽布団や毛布…。
…まったく。そんなもの、今や軍部の上級将校クラスにしか手に入らないだろうに…どんな闇のルートを確保しているのか…」
「…え…」
靴音が止まり、紳一郎が振り返る。
ランプの灯りに照らされたその切れ長の瞳が煌めいた。
「…あまり深く関わらないことだ。
あの八雲という執事には、危険な罪の薫りが漂っている」
あの二人は…恋人同士なんですか?」
塔の階段を降りながら、薫は紳一郎に尋ねる。
「聞くだけ野暮だろう?そんなこと」
振り返って笑う紳一郎の白く涼しげな美貌には艶めいた色が浮かぶ。
ランプの灯りが揺らめき、古びた煉瓦の壁に二人の影をゆらりと映した。
「…執事と主人の道ならぬ恋…。
まったく…。ぞっとするほどに美しいあの二人にお似合いの醜聞じゃないか。
…なんだか訳ありだけれど、まあ人には色々事情があるものさ」
「紳一郎さん!」
前を向き、紳一郎は靴音を響かせながら滑るように階段を降りる。
「…別にどんな爛れた恋をしようとどうでもいい。
僕は青山様に頼まれて、瑞葉さんを匿っているだけだ。
瑞葉さんには同情せざるを得ない部分もあるしね。
…あの執事は食料や物資が益々乏しくなる昨今、どこから調達してくるのか分からないが、驚くような豊かな食料や嗜好品や贅沢品を瑞葉さんのために切らさずに持ってくる。
上等なパン、バター、チーズ、ハム、新鮮な野菜や果物に牛乳…蜂蜜やワインやチョコレート、キャンディ…。
舶来の石鹸、香油、古めかしいが仕立ての良い衣服…女物ばかりだけどな。
それから灯油に炭、羽布団や毛布…。
…まったく。そんなもの、今や軍部の上級将校クラスにしか手に入らないだろうに…どんな闇のルートを確保しているのか…」
「…え…」
靴音が止まり、紳一郎が振り返る。
ランプの灯りに照らされたその切れ長の瞳が煌めいた。
「…あまり深く関わらないことだ。
あの八雲という執事には、危険な罪の薫りが漂っている」