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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
広い板張りの廊下は冷気が氷の国のように満ちていて、薫は思わず身震いをした。
ガウンの胸元を搔き合せながら、一枚硝子の大きな窓に近づく。

…灯りがなくとも仄明るいのは、降りしきる雪のせいだ。
暗鬱な闇色の空から、まるで気紛れな天の贈り物のように静かに舞い降りてくる。

…雪か…。

いつかのクリスマスに、子ども部屋で、屋根裏部屋で、学院の舞踏室で、礼拝堂で、暁人と降り積もる雪を飽かずに眺めた…。
隣にいたのは、いつも暁人だった。

暁人は何も言わずにおずおずと薫のかじかむ指に手を伸ばして、決まってこう言うのだ。
「…メリークリスマス。薫…」
暁人の手はいつも温かかった。
その温もりが気恥ずかしくて、いつも無愛想に手を離し
「メリークリスマス」
そっぽを向いてぶっきら棒に答えるだけだった。
けれど、暁人は嬉しそうに微笑っていた。

その微笑みが鮮やかに蘇り、薫の胸を切なく締め付けた。

…どうして、もっと優しく笑いかけてやらなかったのだろう。
本当はとても大好きだったのに。
いつも隣にいるのが当たり前で、その優しさに甘えていたのだ。

…暁人…!

窓辺の雪景色が、次第にじわりと滲んでゆく。
薫は慌てて乱暴に眼を擦る。

…泣かないって、もう決めたのに…。

暁人がいない間に、成長しなくちゃ…。
帰ってきた暁人に笑われる…。

ごしごしと貌を擦り上げ、窓辺から離れる。

…部屋に戻ろうとして、ふと薫の部屋の隣室の扉から細長い灯りが朧げに漏れているのが見えた。
薫は脚を止めた。

…あの部屋は…紳一郎さんの部屋だ…。



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