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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
「…そうか。
薫は覚悟を決めたのだね。
では、我々がとやかく言うのはやめよう」
重々しくも温かな声が、礼也の口から響いた。
光が驚いたように大きな瞳を見開いた。
「礼也さん!貴方、そんな簡単に…!」
「簡単ではないよ。私も薫は軽井沢に避難してもらいたい。
…私はこれから飯塚の炭鉱で総指揮を執ることになるだろう。
軍の命令にはもはや逆らえない。
日本の戦局はいよいよ切羽詰まっている。
私はよくても社員の命…いや、国民の運命がかかっているからな…。
軽井沢では光さんと菫だけになってしまう。
本当は家族が一緒にいて欲しい」

…けれど…と、礼也はゆっくりと椅子から立ち上がる。
そうして、薫に近づくとじっと深く見つめた。
「自分のこと以外で薫が何かしたいと思うその気持ちを…私は立派だと思うのだ。
お前は精神の貴族だ。
そんな薫を、私は誇りに思うよ」

薫の大きな焦茶色の瞳が、見る見る内に潤む。
「…父様…!」
礼也は、小さな子どもにするように愛おしげに薫を抱きしめた。
「弱音を吐くなよ。男に二言はないんだぞ。
…それから、必ず生き延びろ。
お前は勇ましい炭鉱男の末裔でもあるのだからな。
へこたれたら承知しないぞ」
朗らかに笑う礼也に薫は瞬きもせずに見つめ返し、頷く。
「はい。父様」
薫の艶やかな髪をくしゃりと搔き回すと、
「…泉。頼みがある」
振り返った。
「はい。旦那様」
やや緊張しながら答える泉に、礼也は真摯に誠実に懇願した。
「済まないが、お前には薫と共にここに留まってもらえないか?
薫一人にはしてはおけない。
お前にしか頼めないのだ。
薫を、守ってやって欲しい」

司が小さく息を飲む。
間髪を入れずに泉が返答を返した。
「勿論でございます。旦那様。
私が、命に代えましても薫様をお守りいたします。
どうぞ、ご安心していただけますように」
「ありがとう、泉。
お前の尊い忠誠心に心から感謝する」

「薫!泉まで巻き込むのよ。
死んだら…死んだら承知しないわよ。絶対に…!」
そう叫ぶと光は、なりふり構わずにまるで子どものように号泣したのだった。
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