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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「薫、瑞葉さんの部屋に朝食を運んでくれ」
寮の広い厨房で紳一郎はてきぱきと指示を出した。
…どうやら、瑞葉の食事は紳一郎自らが拵えるらしい。

「コーンブレッドに栗蜜、チーズを炙ったものに塩漬肉、無花果のコンポート、アッサムで入れた熱いミルクティー…。
…今や王侯貴族ですら口にできることは稀だよ。
同じ戦時中の東京とは思えない食事だ。
全く…あの執事の瑞葉さんへの妄執には恐れ入るよ」
可笑しそうに笑う紳一郎の貌が眩しく映るのは、冬の透明な朝日のせいだけではないだろう。
…と、思いかけ…

…いや、あれは…多分雪夜が見せた妖しい幻の夢だ…。

「…は、はい…」
銀器の盆を持ち上げる薫の肩に、しなやかな手が掛かる。
「…秘密だと言ったろう?
そんな貌をしていたら、生徒にバレるよ」
耳元で囁かれ、間髪を入れずに耳朶をかちりと噛まれた。

「…痛っ…」
見上げる先に、紳一郎の艶を含んだ揶揄うような眼差しが煌めいていた。

…やっぱり…夢じゃなかったんだ…。

…けれど…

口を開きかける前に、紳一郎はくるりと踵を返し厨房の奥に姿を消した…。

「…なんだよなあ…まったく!」
薫は栗鼠のように頰を脹らませ、憮然としながら厨房を後にした。


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