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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…今…なん…て?」
目の前のお伽話から抜け出てきたような麗人が、何を言っているのか薫には理解できなかった。

「…八雲は、僕の父親です。
僕の母が不義を犯して…僕が生まれました。
偶然、二人の会話を聞いてしまったのです」
瑞葉の美しい唇から溢れ落ちる言葉は、悍ましい事実の告白だ。

「…まさか…そんな…。
だって、あの八雲さんと貴方は少しも似ていません!
確かに…八雲さんの瞳は日本人とは異なる瑠璃色ですが…瑞葉さんの瞳は翠色だし…髪の色も違う…」
八雲の氷の国の海のような…世界中の美しい鉱石の青のような瞳…。
どこか禍々しい謎めいた瞳だった…。
八雲の髪は漆黒の闇色だ。
瑞葉の蜂蜜色の金髪とは似ても似つかない。
…なのに、そんなことが…⁈

「…だから、公には露見しなかったのでしょう…。
祖母も八雲のことは未だに疑ってもいません。
僕も最初は信じられなかった。
…僕が生まれた時から大切に…いいえ、両親にも祖母にもすべての家族に見捨てられた僕を誰よりも大切に慈しみ育てて、守ってくれた八雲が…僕の本当の父親だったなんて…。
信じたくはなかった…」

瑞葉の美しいエメラルドの瞳から涙が溢れ落ちる。
…それはさながら凝固して稀有な宝石と化すのではないかと思うほどに美しい涙であった。

白い頬を濡らす涙を、拭おうともせずに瑞葉は語り続ける。
「…最初は絶望して、彼を遠ざけました。
二度と…貌も見たくないと思いました…。
けれど…離れれば離れるほどに八雲が狂おしいほどに恋しくなるのです。
…自分の血の繋がった父親だとしても…。
いえ、父親だからこそ、僕は彼が愛おしく…誰よりも愛していると気づいたのです」
「で、でも…!父親だと知って…瑞葉さんは八雲さんと…」
思わず叫んだ薫を、瑞葉はゆっくりと見上げた。
涙に潤んだエメラルドの瞳が、ぞくりとするほどの艶を帯びて輝き始めた。

「…愛し合いました…。
身も心も…深く…激しく…」
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