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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲
「…べ、別に…ないよ…」
「薫様。泉は薫様のことでしたら何でも分かるのですよ。
…何しろ薫様が赤ちゃんの頃からずっと泉がお世話をしたのですから…。
お貌を見ただけで薫様が何を考えていらっしゃるか手に取るように分かるのです」
「…泉…」
泉の手が薫の髪を優しく梳き上げる。
「…こちらで何かお心を痛めるようなことがあったのではございませんか?」
薫は大きな瞳を見開いた。
…心を痛めること…。
確かにある…。
けれど、それは泉に打ち明けて、何とかしようというものではないことは薫にも分かる。
今までの薫だったら、泉に甘えすべて丸投げして愚痴を言っていた。
…でも…。
「…薫様。もし、お辛いのでしたらお屋敷に戻っていらしてください。
鷹司様には私からお話いたします」
「…泉…」
幼子を慰めるように髪を撫でる手が温かい。
この手に縋れば、煩わしいことはすべて解決してくれる…。
…でも…。
…薫はその手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「…大丈夫。自分でなんとかする。ここの仕事も辞めない。
紳一郎さんは僕を必要としてくれているんだ」
「…薫様!」
泉の凛々しい眼が驚きに見開かれ…やがて少し泣きそうに細められた。
「…薫様は、大人になられたのですね…」
そうしみじみと呟くと、そっと薫の額に唇を落とした。
…温かな唇の感触がくすぐったくも嬉しい。
「けれど忘れないでください。
泉はどんなときでも薫様の味方です」
優しい瞳が薫を包み込む。
「…泉…。ありがとう。大好きだよ」
二人の間にカイザーがぐいと割り込み、高らかに鳴いた。
薫と泉は貌を見合わせて、思わず吹き出したのだった。
「薫様。泉は薫様のことでしたら何でも分かるのですよ。
…何しろ薫様が赤ちゃんの頃からずっと泉がお世話をしたのですから…。
お貌を見ただけで薫様が何を考えていらっしゃるか手に取るように分かるのです」
「…泉…」
泉の手が薫の髪を優しく梳き上げる。
「…こちらで何かお心を痛めるようなことがあったのではございませんか?」
薫は大きな瞳を見開いた。
…心を痛めること…。
確かにある…。
けれど、それは泉に打ち明けて、何とかしようというものではないことは薫にも分かる。
今までの薫だったら、泉に甘えすべて丸投げして愚痴を言っていた。
…でも…。
「…薫様。もし、お辛いのでしたらお屋敷に戻っていらしてください。
鷹司様には私からお話いたします」
「…泉…」
幼子を慰めるように髪を撫でる手が温かい。
この手に縋れば、煩わしいことはすべて解決してくれる…。
…でも…。
…薫はその手を取り、ぎゅっと握りしめた。
「…大丈夫。自分でなんとかする。ここの仕事も辞めない。
紳一郎さんは僕を必要としてくれているんだ」
「…薫様!」
泉の凛々しい眼が驚きに見開かれ…やがて少し泣きそうに細められた。
「…薫様は、大人になられたのですね…」
そうしみじみと呟くと、そっと薫の額に唇を落とした。
…温かな唇の感触がくすぐったくも嬉しい。
「けれど忘れないでください。
泉はどんなときでも薫様の味方です」
優しい瞳が薫を包み込む。
「…泉…。ありがとう。大好きだよ」
二人の間にカイザーがぐいと割り込み、高らかに鳴いた。
薫と泉は貌を見合わせて、思わず吹き出したのだった。