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夜明けまでのセレナーデ
第2章 礼拝堂の夜想曲

…紳一郎の助手の仕事にも、薫は大分慣れてきた。
寮生の世話はそれほど大変ではなかった。
戦争が激しくなり寮生の数は通常の半分以下に減っていたからだ。
大方の生徒は地方に疎開し、残りの生徒は地方の実家に帰省が困難なものだけであった。
元より富裕層の子弟が通う私学のこと、仕送りも潤沢にあるし食事の支度や世話はそう面倒ではない。
生徒たちも皆、中学生以上だ。
半分大人の領域に足を踏み入れたような年齢なのだ。
我儘を言うこともなく素直に薫に懐いてくれた。
けれどやはり、夜になると不安がったり空襲警報にはいつまでも慣れない生徒も幾人かいた。
そんな生徒たちのために、薫は舎監室を開放した。
「眠れなかったらいつでもここで寝ろ。
…僕は何もしないけどな」
そっけなくしているのに生徒たちは薫を慕うようになった。
…尤も、人気が集まったのはあの日、どうしても薫に纏わり付いて離れずに仕方なく泉が置いて行ったカイザーのおかげかもしれないが…。
嬉しそうに薫の側で尻尾を振るカイザーを見て、紳一郎は鼻を鳴らした。
「…ま、この非常時だ。
番犬ということで特別に許可しよう」
…ただし…
と、紳一郎は形の良い眉を跳ね上げた。
「僕の部屋には絶対入れるなよ。
僕は動物は大嫌いなんだからな」
見かけは如何にも厳しい軍用犬に見えるが、実は臆病で頭のネジが何本か抜けているカイザーは嬉しそうに高らかに吠えたのだ。
寮生の世話はそれほど大変ではなかった。
戦争が激しくなり寮生の数は通常の半分以下に減っていたからだ。
大方の生徒は地方に疎開し、残りの生徒は地方の実家に帰省が困難なものだけであった。
元より富裕層の子弟が通う私学のこと、仕送りも潤沢にあるし食事の支度や世話はそう面倒ではない。
生徒たちも皆、中学生以上だ。
半分大人の領域に足を踏み入れたような年齢なのだ。
我儘を言うこともなく素直に薫に懐いてくれた。
けれどやはり、夜になると不安がったり空襲警報にはいつまでも慣れない生徒も幾人かいた。
そんな生徒たちのために、薫は舎監室を開放した。
「眠れなかったらいつでもここで寝ろ。
…僕は何もしないけどな」
そっけなくしているのに生徒たちは薫を慕うようになった。
…尤も、人気が集まったのはあの日、どうしても薫に纏わり付いて離れずに仕方なく泉が置いて行ったカイザーのおかげかもしれないが…。
嬉しそうに薫の側で尻尾を振るカイザーを見て、紳一郎は鼻を鳴らした。
「…ま、この非常時だ。
番犬ということで特別に許可しよう」
…ただし…
と、紳一郎は形の良い眉を跳ね上げた。
「僕の部屋には絶対入れるなよ。
僕は動物は大嫌いなんだからな」
見かけは如何にも厳しい軍用犬に見えるが、実は臆病で頭のネジが何本か抜けているカイザーは嬉しそうに高らかに吠えたのだ。

