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夜明けまでのセレナーデ
第1章 屋根裏部屋の約束
「泉がここに残るなら、僕もここにいる。
軽井沢にはいかない」
自分の部屋に帰るなり、司は美しい貌を紅潮させながら泉に訴えた。
「何を仰っているのですか。
先程旦那様も奥様も仰っていらした通り、司様も軽井沢の別荘に避難していただきます」
淡々と答える泉に業を煮やしたかのように、ヴィクトリア朝の意匠が施されたマントルピースの縁を司は強く叩いた。
「敬語やめてよ!泉!」
美しい瞳に睨まれて、泉は小さくため息を吐いた。
そうして、子どもを宥めるように語り始めた。
「…分かったよ。司。
頼むから奥様たちとご一緒に軽井沢に避難してくれ。
軽井沢には外国人がたくさん疎開している。
様々な宗派の教会も多い。
だから唯一空襲を免れられる場所だと旦那様が仰っていた。
引退した前執事の生田さんが復帰して軽井沢のお屋敷を取り仕切ってくださる。
だからお前は安心して…」
「分かってない!泉は何も!」
司のほっそりとした白い手が、泉の制服のジャケットを掴み引き寄せた。
「離れたくないんだよ、泉と!
一緒にいたいんだ!」
胸が締め付けられるような哀しさと寂しさに満ちた声だった。
思わずその華奢な身体を抱き竦める。
「…司…!」
腕の中の司が泉の逞しい胸板を拳で叩く。
「一緒にいてくれるって…そばにいて守ってくれるって…約束したのに…!嘘つき!嘘つき嘘つき!嘘つ…」
「司…!」
泣き出す司の唇を堪らずにキスで塞ぐ。
「…んんっ…!」
一瞬抗うように唇を閉ざしたが、泉の熱く長く濃密な口づけにやがて司の身体から、力が柔らかく抜けていった。
「…ああ…っ…ん…っ…」
熱く甘い吐息の音だけが、広い部屋に満ち溢れ…二人は束の間の口づけの快美感に溺れた。
軽井沢にはいかない」
自分の部屋に帰るなり、司は美しい貌を紅潮させながら泉に訴えた。
「何を仰っているのですか。
先程旦那様も奥様も仰っていらした通り、司様も軽井沢の別荘に避難していただきます」
淡々と答える泉に業を煮やしたかのように、ヴィクトリア朝の意匠が施されたマントルピースの縁を司は強く叩いた。
「敬語やめてよ!泉!」
美しい瞳に睨まれて、泉は小さくため息を吐いた。
そうして、子どもを宥めるように語り始めた。
「…分かったよ。司。
頼むから奥様たちとご一緒に軽井沢に避難してくれ。
軽井沢には外国人がたくさん疎開している。
様々な宗派の教会も多い。
だから唯一空襲を免れられる場所だと旦那様が仰っていた。
引退した前執事の生田さんが復帰して軽井沢のお屋敷を取り仕切ってくださる。
だからお前は安心して…」
「分かってない!泉は何も!」
司のほっそりとした白い手が、泉の制服のジャケットを掴み引き寄せた。
「離れたくないんだよ、泉と!
一緒にいたいんだ!」
胸が締め付けられるような哀しさと寂しさに満ちた声だった。
思わずその華奢な身体を抱き竦める。
「…司…!」
腕の中の司が泉の逞しい胸板を拳で叩く。
「一緒にいてくれるって…そばにいて守ってくれるって…約束したのに…!嘘つき!嘘つき嘘つき!嘘つ…」
「司…!」
泣き出す司の唇を堪らずにキスで塞ぐ。
「…んんっ…!」
一瞬抗うように唇を閉ざしたが、泉の熱く長く濃密な口づけにやがて司の身体から、力が柔らかく抜けていった。
「…ああ…っ…ん…っ…」
熱く甘い吐息の音だけが、広い部屋に満ち溢れ…二人は束の間の口づけの快美感に溺れた。