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ピアノ
第5章 溺れる日々

快楽に溺れた啓子と幸一はレッスンもそこそこにベッドに入る日々を送っていた。
だが、一時でもレッスンを怠れば、成長は止まる、いや、退歩してしまう。

「どうしたの?何だか変よ」
翌月、親しくしている音大時代からの仲間に、幸一の演奏の乱れを指摘された。これくらいは大丈夫かなと甘く考えていたが、たやすく聞きとがめられてしまった。
「か、風邪よ。そうなの風邪を引いているのよ」
啓子はそういってごまかしたが、快楽に溺れた自分が恥かしかった。そして、「こんなことではダメ」と欲望を抑え、以前のような厳しい姿勢に戻った。

若い幸一には辛いことだったが、彼も啓子に従った。

「もっとテンポよく弾いて!」
「何をやっているの?ちっとも曲を理解していないじゃない!」
「バカ!昨日より悪くなっている。やる気ないなら帰りなさい!」
レッスン室には容赦ない啓子の罵声が響くが、幸一は必死にピアノに向かう。目標はずっと先にある。
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