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ピアノ
第6章 別れの時
心を入れ替えた幸一は一心にピアノに取組んだ。
「ダメよ、そんなんじゃ」
「はい」
レッスンは時には深夜にも及んだが、その努力は、4月、幸一が高校2年生になると現れた。
「いいじゃないか、あの子」
「そうね。力強くて、それでいてテンポがいい。素晴らしいわ」
出場したコンクールで、審査員からこんな声があがり、たまたま聞きに来ていた知り合いの雑誌記者からも、「水元さん、どこで見つけたの?」と羨ましがられた。
そして、夏が過ぎ、秋が深まると、こうした評判が中央にも伝わり、年が変わった1月には、多方面から「うちで勉強しませんか」と誘いがかかるようになった。
しかし、幸一は、「僕は嫌です。これからも先生のレッスンを受けたい」と言って、それらの誘いを全て断った。
だが、高校3年生になった5月、とうとう恩師から電話が架かってきた。
「ああ、水元さんかな?私だけど。うん、吉野幸一君のことだけど、よくここまで育ててくれたね。才能のある子だったから、君に預けたんだ……そう、そうなんだよ。これからが本当に大切な時期だから、僕のところで面倒を見るから……うん、本当にありがとう。君には別途お礼をするから」
いづれ来るだろうと、啓子は覚悟していた。