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ピアノ
第6章 別れの時
3年前、恩師からは確かに「預ける」と言われた。だから、評判になれば、「ご苦労様」といって取り上げられる。それは仕方がないことだ。
幸一は「嫌です」と言ったが、恩師に逆らったら、音楽の世界では生きていけない。それに、名もないピアノ教師に付いていても、これ以上にはなれない。上を目指すには「音大教授」という恩師のブランドが絶対に必要だ。
啓子は「何を言っているのよ。こんなチャンスは無いんだから、行って来なさい」と心を鬼にして、彼の背中を押して送り出した。
その後、幸一は恩師の下で研鑽を積み、大学院を卒業すると、目標だったピアニストとして華々しくデビューし、今では、招かれて各地の演奏会を飛び回るようになった。
しかし、幸一は忘れなかった。啓子がいたから、自分があることを。
だから、10年以上たった今でも、演奏会には必ず啓子を招き、感想を聞く。そして、高ぶった神経を啓子に癒してもらう。
初めてのあの夜と同じように……