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ピアノ
第2章 恋
「啓子さん、大学院を終えたら結婚するって本当?」
「ええ、実家の方でいい話があるからって、先月お見合いしたの」
「そう、良かったわね。お幸せに」
(何が「良かったわね」よ、人の気持ちも知らない癖に……)
啓子は悔しかった。プロを目指して音大の大学院まで進んだのに、どこからも声が掛からなかった。
「あの子、いい腕だけど、体に迫力がないよね。あれじゃあステージでは映えないよ」
ある楽団のオーディションを受けた時、関係者が話しているのを偶然聞いてしまった。ショックだった。技量がダメならまだしも、体つきで落とされるとは、考えてもいなかった。
(背は160センチあるのに、バストが80、やせっぽちってことなの?そんなことでダメなんて……)
不完全燃焼で結婚してもうまくはいかない。
案の定、夫の諍いが絶えず、5年も持たずに離婚してしまった。
啓子は心の虚しさを紛らわすため、慰謝料代りに貰ったマンシヨンの一室でピアノ教室を開いた。幸い、「音大の大学院出よ」と口コミで広まり、生徒には恵まれた。そんな時、「どうだい、上手くいっているかい?」と大学院時代の恩師から電話があった。
忘れ去られていない!啓子は心から喜んだ。そして、「いい子がいるから、面倒見てくれないか?」と生徒まで世話してくれた。それが吉野(よしの)幸一(こういち)との出会い、彼が中学3年、15歳、啓子が32歳の時だった。