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ピアノ
第3章 雪の悪戯

「関東地方に大雪注意報が出されています。明日の明け方まで降り続くでしょう」
先程からテレビは繰り返し伝えていた。そして、アンテナが凍りついたのか、画像が乱れてきた。

午後6時、レッスンの時間をとうに過ぎていた。今日はもう来ないと思った啓子は教本を閉じ、片付けを始めた。吹き着ける風の音と、ベランダを埋めていく雪の白さを窓越しに見るだけでも、外の厳しさがわかる。

その時、ピンポン、ピンポンとインターフォンが鳴った。
誰かしら?とテレビモニターを見ると、雪ダルマのようなものが写し出されていた。

外の廊下にも雪が吹き溜まっているのかと、ドアチェーンを付けたまま、外の様子が分かる程度にほんの少しだけ開けたが、ヒューっと凍るような風が吹き込んでくる。

寒い……啓子は直ぐにドアを締めようとしたが、「僕です」と小さな声が聞こえた。

えっ、まさかと、もう一度ドアを開くと、そこには雪にまみれた幸一が立っていた。

「どうしたの?」
なんと間抜けた挨拶だが、それしか言葉が出なかった。
「ピ、ピアノ、せ、先生に……ピ、ピ、ピ……」
彼は寒さで震えて言葉にならない。コートは着ているものの、頭から靴の先まで雪で真っ白。
「何をしているの。早く、中に」と啓子は彼を引き入れたが、顔色には血の気が無く、唇は赤みを失い、目は虚ろでガタガタと体の震えが止まらない。

驚いた啓子が「幸一君、しっかりして!」と両手で幸一の頬を必死に擦る。氷のように冷たいが、続けると、ようやく「う、うっ、寒い……」と声が出た。

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