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はじめてでドタバタな夜と、その後のこと
第1章 寺井夏美は、なにを考えているのだろう?


 シュワッと泡を弾くコーラを、寺井が飲み下してゆく。

 ゴクゴクと鳴らす喉。ほんのりと汗ばんだ額。

 飾り気のないTシャツの油断しきった丸首の襟から、その奥の胸元がチラリと覗きそうになって……。

「なに?」

 不意に向けられた視線に、びくりとした。

「な、なにがっ!?」

「だって、じっと見てるから、なんだろうって」

「別に……見てなんか、ないし」

「そ――?」

 むきになって否定する僕の顔を、小さく首を傾げた寺井が不思議そうに眺めている。

 僕が彼女のことを、こんなにも女子として意識したことは、たぶんなかったはず……。

 寺井夏美は、とても変わっている。それはオタ趣味であることを差し引いても、かなり顕著であるように思う。

 男の中で平然としていて、普通に友達のようにつき合ってきたから、今更その距離感がつかめない。

 部屋で二人きりだからって、それがなんなんだよ。そう思おうとする気持ちは、確かにあるのに……。

 だけど、やはり僕は意識していた。

「顔――紅くない?」

 そう言った寺井に、顔をまじまじと見られる。

 眼鏡の奥の寺井の眼差しを受け、僕はドキドキした。

「あ……いや」

 僕は期せずして指摘された顔の色を手で覆うと、誤魔化す術を求めるように部屋の中を見回した。これ以上取り乱して、変に思われてしまうことをなによりも恐れる。

 すると目に止まったのは、午後十時を回った時計の針だ。

「あれ? もう、こんな時間じゃん」

 幾分わざとらしい口調で言った。

「だから?」

「ほら、終電! 急がないと、間に合わなくなるから」

 慌てたように、そう急かす僕に。

「え? 私、今夜は帰らないよ」

 寺井はあっさりと、そんな風に言ったのだった。

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