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はじめてでドタバタな夜と、その後のこと
第1章 寺井夏美は、なにを考えているのだろう?
「あっ……ごめん」
挙動を乱した僕を、寺井は真顔で諭すように言う。
「もう少しで終わるから。集中して、どうぞ」
「わ、わかってるよ」
むっとしながら答えたのは、バツが悪かったからに他ならない。どうして手を止めていたのか、その理由を聞かれていたら言葉を詰まらせていたに違いなかった。
そんなこちらの心理を、実は見透かしていたのかもしれない。寺井は小さくため息をつくと、更にこうつけ加える。
「なにか特別な想いがあるにしても、とりあえず終わらせてからにしよう。私って、そういう性格なんだ」
「特別な想い……?」
「別に……思い当らないなら、それでもいいけど」
「……?」
またしても寺井の言動が、僕の頭を空洞化させた。さっきから彼女の意味深な言葉に、胸の中をくすぐられている気分である。
とにかく寺井の言うように、今はレポートを仕上げることに集中しなければいけない。それは寺井の真意をはっきりさせるためでもあり、僕自身に生まれはじめている、この気持ちをはっきりさせるためにも。
僕は男子校の出身で、大学に入るまで周りに女子なんて一人もいなかった。彼女はもちろん、女子の友達ですらいたことがない。
しかし男子校だからそうだったというのは、実は言い訳にすぎなかった。ヘタレな僕はきっと共学の高校であったとしても、同じような青春を送っていたに違いないだろう。
そんな僕が今、自分の部屋で、女の子と二人きり。意識するなという方が、無理な話だった。
そうだ。僕は今この上もなく、寺井夏美を女の子として意識している。