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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
「「うぉおおおっ!」」
直愛を先頭にした奥州1万の兵が馬すら無い万里に向かって襲いかかる。
「前に出て来いっ!黒崎の若造っ!」
獅子の遠吠えだけが戦場に木霊する。
投降もせず、逃げ出す事もしなかった万里のプライドだけは褒めてやる。
だが、しかし…。
「行かねえよ。これで俺が行ったら、ただの弱い者イジメじゃん?」
勝者の余裕で俺はとことん万里を馬鹿にして兵の士気を上げ続ける。
のんびりと構える俺に寄り添っていた須賀が笑いを噛み殺す。
「何がおかしい?」
「いや…、些か不謹慎ですぞ。黒崎様…。」
「事実だろ?」
梁間討伐で奥州は苦渋を舐めた形にされた。
今回の万里の首取りは意地でも奥州兵がやり遂げるつもりで挑んでる。
そこへ大将の俺が黒崎の兵で乗り込めば奥州は道を譲って再び苦渋を舐める羽目になる。
須賀が大人しく俺と留守番をしてるのもその為…。
直愛では万里の首が取れぬと判断したならば俺が行けば良いだけだ。
ボロボロの万里なら直愛でも勝てる。
そもそも俺の読みじゃ万里はハッタリだけの漢だ。
あの長い槍では懐に入られれば全く役に立たない代物にしかならない。
接近戦の経験が少ない万里はハッタリだけで兵の士気を高めてから自分は後方で高みの見物をしてた程度の大将だ。
日が沈み始め戦場の視界が悪くなる。
「直愛っ!」
そろそろ決着を付けろと叫ぶ。
「黒崎様っ!」
須賀が叫ぶ。
この戦場で一番目立っていた万里の槍が見えなくなる。
完全に日が沈み、俺の周りに篝火(かがりび)が灯る。
あれほどまでに混乱し兵と兵のぶつかり合いで騒然としていた戦場に静寂が訪れる。