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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
雪南はあらゆる学問を修めてる。
「雪南は特別だからな。」
「鈴も雪南みたいになれば神路は嬉しいか?少しは神路の役に立つのか?」
鈴が俺の着物の端を掴んで俺の顔を覗き込む。
一途で真っ直ぐな瞳…。
ただ可愛くて鈴を抱き締める。
「少しづつで良い。」
雪南みたいにガツガツと勉強された挙句に口煩くなられても俺が鈴の扱いに困るだけになる。
「神路と離れてても神路の役に立てるようになりたい。」
それが留守番ばかりの鈴の小さな野望らしい。
「戦は終わった。しばらくは一緒に居れる。」
鈴の額に口付けをすれば鈴が僅かに笑ってくれる。
「そうやって無闇に小姓を甘やかしてるから兵に鈴が恨まれたりするのですよ。」
俺の背後から冷たい声がする。
「悪いか?」
「黒崎様のお好きになさい。どうせ黒崎様は人の意見を聞きはしないお人ですからね。それよりも黒崎様に挨拶をしたいという者が来ておりますから私と一緒に来て頂きます。鈴はその間に薬を飲んで少しでも寝るようにしなさい。」
鈴に薬を渡し雪南は俺の甲冑の襟首を掴み鈴から引き剥がし、天幕から無理矢理にでも連れ出す。
「なっ!?雪南…、俺は鈴と…。」
「そういう事をしてたら、また鈴が余計な怪我をするだけだと自分は言ってるのです。そろそろ黒崎様もご自分のお立場を理解して下さい。」
今の俺はこの戦場の支配者であり、兵達の注目を浴びる存在なのだと雪南が言う。
兵達が騒ぐ中から俺の前に飛び出た者が俺の前へ跪き兜を脱ぎ頭を垂れる。
「羽多野か?」
「天音より急ぎ、馳せ参じましたが間に合わず…。」
堅物の羽多野が臣下の姿勢を崩さない。
「良い。お前の良い判断がこの戦で俺を勝たせてくれた。」
「有り難きお言葉…。」
羽多野が厳つい顔をくしゃくしゃにして笑う。