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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
がっくりと項垂れた俺の肩を雪南が叩く。
「茂吉の面倒もしっかりと見なさいませ。」
雪南の嫌味に胃が痛くなる。
「茂吉、お前…、幾つだよ?」
「26になりやす。」
「はぁ!?」
今更、兵士訓練とか出来るのかと不安になる。
「訓練とか必要っすか?」
呑気な茂吉が羽多野に聞く。
「当然だ。本気で黒崎様に仕えるつもりならば最低限の剣術は学ばねば…。」
「何処で学べって言うんです?」
「天音の訓練所で基礎だけなら…。」
そんな会話を羽多野と茂吉がする。
うんざりする俺の前に駆け寄って来る直愛の姿が見える。
「神路殿っ!」
まるで仔犬のように嬉しそうな表情で直愛が俺の前に跪く。
「よくやったな。」
「いえ…。」
その後は兵達と盃を交しての宴へと突入する。
「明日にでも黒崎様だけは直愛殿を伴い燕へ発ちますか?」
雪南が今回の戦の結果を出来るだけ早く黒炎で待つ御館様に報告しろとせっついて来る。
「俺は鈴を連れてしばらく天音に行く…。燕には直愛だけが戻れば良い。」
「黒崎様っ!」
雪南が複雑な顔をする。
黒炎への報告は必要だが、西元の築城を理由に今しばらくは怪我をした鈴に静かな時間を与えてやりたいと俺は雪南に我儘を貫く。
「神路殿が天音に行くなら私もお供します。」
雪南の不機嫌を他所にクソ真面目な直愛は何処までも尻尾を振り俺について来ると言う。
「俺もっ!俺もっ!」
何故か余計な茂吉までもが来る気満々だ。
「雪南っ!」
流石に雪南に助けを求めてはみたが…。
「自業自得です。」
と一笑に付されて終わってしまう。
「お前ら…。」
勝手にしやがれとヤケクソで酒を呑む。
なんで、こんな事になったんだ?
戦が終わったのだから鈴と2人で静かに天音で過ごす予定だったのに、余計な人間が俺にはゾロゾロとついて来る。