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戦場に響く鈴の音
第8章 開戦
鈴が無邪気に可愛い寝顔を見せてるというのに、俺は雪南に馬車馬の如く働かされる。
「次は今回の戦に使った費用の決済ですよ。」
雪南が鬼に見える。
せっかく戦には勝ったのに、なかなか燕に戻ろうとしない俺への嫌がらせを雪南が繰り返す。
頼むから鈴と2人にしてくれ…。
毎日、そう願うだけの天音滞在となった。
天音に来て3週間が過ぎた頃、本格的な夏となり気温の上昇について行けない俺は張り出しの木の床に上半身を裸にして大の字になって横たわる。
俺の腹の上には完全に傷が癒えた鈴が跨り雪南に与えられた本を読む。
「神路、これは?」
字がわからない時だけ鈴は俺に聞いて来る。
因みに、これが俺の方から声を掛けても読書中の仔猫は返事すらしない。
「梘水(かんすい)だな。」
「梘水と小麦粉を混ぜ細く伸ばしたもの、もしくは包丁で切ったものが…、神路、これは?」
「拉麺(ラーメン)…、てか、鈴、お前は一体何の勉強をする本を読んでる?」
早くも漢字を覚えたいと言う鈴は寝込んでる時から雪南に本を借りては片っ端から読み漁っていた。
「雪南が貸してくれた本だ。」
わかり切った事を鈴が答える。
「その本は蒲江が出してる料理本だろ?」
蒲江家が出す料理本は蘇国内では必ずベストセラーに入るという優れものには違いない。
しかし…。
「雪南が料理は化学だから、これを読むだけでいっぱい勉強した事になると言ってる。」
と鼻息を荒くする鈴に、それは間違いだと言いたくなる俺はため息を吐く事になる。
挙げ句に…。
「神路、化学ってなんだ?」
そもそも化学を知らない鈴が聞いて来る。
「科学の一つ…。」
「だから科学ってなんだ?」
俺だって雪南とは違い、科学なんぞ、あまりよくはわからんというのに鈴は可愛い瞳で俺の顔を覗き込む。