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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭
「いえ…。」
鈴が気になって飲めないなど言う訳にいかない。
「胡蝶、お前の主人はお前の酒が飲めぬらしい。」
俺の傍に仕える花魁に御館様の嫌味が飛ぶ。
「申し訳ございません…。」
か細い声を洩らし胡蝶が頭を垂れる。
「お前のせいじゃ…。」
ない…、と言い訳をしたところで意味が無い。
すっかり胡蝶の存在を忘れてた。
黒炎の宴には必ず呼ばれる胡蝶…。
前の宴でも胡蝶は俺に付いていた。
俺に買われた花魁なのだから、呼ばれる度に俺に付くのは当たり前であり、胡蝶が俺以外の男に付くとすれば秀幸や御館様という限られた漢だけになる。
それも大河家臣達には目障りに感じる状況になる。
元服したばかりの若造が蘇国一の花魁を侍らせてる。
胡蝶の買い付けは御館様からの祝いという形であるからこそ、それを大っぴらに口にする者は少ないが、気に入らないオーラだけは宴の度に湧き上がる。
本来なら胡蝶の亭主である俺が胡蝶に気遣い守ってやらねばならぬのに…。
俺は秀幸に手柄を取られた時も、今も胡蝶の事を忘れて自分の事だけで精一杯なガキのままだ。
余計な事を言わぬ胡蝶は穏やかな笑顔を作り、俺の盃に酒を注ぐ。
その向こう側に見える金色の視線…。
義父の隣で大人しく食事をしてるように見える鈴だが視線は痛いほど力強く俺に向けて来やがる。
雪南や直愛は黒崎陣営の家臣に囲まれてる。
宇喜多側は鈴が何かをやらかさないかと言わんばかりに鈴へ視線を注ぐ。
鈴はそんな視線はお構い無しだ。
ただ俺の存在が気に入らないと俺だけを睨み付けて不機嫌に美しい顔を歪めてる。
「随分と可愛らしい…。」
耳元でか細い声がする。
「何がだ?」
滅多に余計な事を言わない胡蝶がいつもよりもわざとらしく俺に身体を寄せて来るから胡蝶に問う。