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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭
胡蝶は俺が嫌いな悲しい瞳で俺を見る。
「主様が脇目も振らずに見てる御子です。胡蝶なんか目に入らぬくらいに可愛らしい御子…。」
胡蝶にヤキモチとか似合わないと思う。
それだけ清楚で美しい女だ。
花魁をやってるのが信じられないほど儚く脆い胡蝶を守りたいと思う漢は数多い。
そいつらを出し抜いて俺が胡蝶の亭主に収まった。
なのに俺は胡蝶を見ずに鈴に視線を向けてしまう。
「あれはお前が気に止めるほどのガキじゃない。」
在り来りの言葉で胡蝶を宥める。
胡蝶からは目眩がしそうな甘い香りがする。
鈴からは全身を刺すような痛い視線を感じる。
酒に慣れたはずの俺の目の前が変に霞む。
酔ってるのか?
御館様から無理矢理に飲まされてる感覚を味わう。
生意気な俺を酔わせては、弱い甘ったれのガキだと御館様は俺を押さえ付ける。
わかってる…。
御館様に拾われた俺は御館様の為に生きるしかない。
なのに…。
胡蝶の手が俺に触れる度に鈴が険しい表情で俺を睨む。
鈴に怯える俺を肴にして御館様が酒を飲む。
「今宵は…。」
もう下がりたい。
フラつく足取りで宴の席を立つ。
「神路、酒に弱くなったのか?今宵の主役になり、西元の戦場の猛者と呼ばれた漢が…。」
御館様が俺を笑う。
宇喜多家臣も御館様の嫌味に下品な笑みを浮かべる。
「黒崎様…。」
雪南が俺に寄り添う。
酔ったのは酒にでなく、この謁見の間の雰囲気にだ。
下卑た若造を喰っらってやろうと目を光らせる獣が多過ぎる。
「義父を頼む。」
それだけを伝えて雪南を突き放す。
「後は私が…。」
胡蝶が俺の支えになる。
俺が胡蝶の亭主だ。
胡蝶は俺の為に席を外す。
「気を付けて帰れ…。」
背に御館様の言葉を浴びる。
今夜は俺を狙う輩が出ないとも限らない。