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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭
やり過ぎた。
今回の西元の戦場での俺が立てた手柄が蘇にはあまりにも大き過ぎたのだろう。
戦後の後処理である由との交渉で、それほどまでの動きがあったという事か?
小競り合いじゃ、大した話にはならない。
民の為にしばらく戦を延期したり、話が纏まらないならば神国から帝が出て来て双方に損得が無い形で事を治めてしまう。
戦のきっかけなんかはどうでもいい。
戦場での結果だけが物を言う時代だ。
上級武将の首を討ち取ったレベルの戦なら、勝った方に有利な話になるのは確定してる。
その気になれば武将不在になった笹川の領地を狙って蘇は由に攻め込む事も出来た。
それを堪えて俺は天音に一度引いた。
戦場での勝利は早馬で黒炎に知らされる。
そこから先の仕事は宰相である秀幸の仕事…。
今夜の秀幸は余裕の表情で鈴だけを見てた。
だとすれば、余程に蘇に有利な休戦協定が結ばれた事になる。
その結果が気に入らない輩も大量に生まれたはず…。
無闇に俺を襲いはしないだろうが鈴はどうだ?
今や御館様の庇護にある俺の小姓…。
考えが全く纏まらねえ…。
「主様っ!」
フラフラと黒炎の廊下を歩く俺を胡蝶が止める。
「触るなっ!」
条件反射的に胡蝶の手を振り払えば、驚いた胡蝶が悲しげに目を見開いて俺を見る。
その目を止めろ…。
泣きたいのは俺の方だから…。
ガキの頃の感覚が未だに抜けやしねえ。
この黒炎でありとあらゆる人間を拒否し続けた。
そうしなければ殺される。
今だって俺を狙う輩がウヨウヨ居る。
「悪い…、酔ってんな。俺…。」
胡蝶の悲しげな瞳が俺を冷静にする。
これ以上、泣かせたら漢の恥だというつまらないプライド…。
俺は簡単には潰されない。