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戦場に響く鈴の音
第10章 遊郭
「絖花に連絡してんのか?」
「年に数回の文をやり取りしてます。」
少し拗ねた声に聞こえる。
「妬いてんの?」
「絖花太夫に?彼女は花魁…、私と同じ…。主様が買うたなら私が文句を言う筋じゃありません。」
「なら、なんで不機嫌なんだ?」
「主様が心ここにあらずやから…。」
胡蝶が人差し指で俺の唇に触れる。
花魁との恋は泡沫の恋…。
溺れる事なく偽りの幸せを胡蝶は望む。
輿は加濃に入り、胡蝶が暮らす妓楼へと向かう。
胡蝶は特別な花魁…。
普通なら妓楼の1階で暮らし、2階の座敷で客を取る。
胡蝶は妓楼の中庭にある離れに個人の居を貰い受け、ある程度のプライバシーが保たれてる。
胡蝶を買う客の質の高さが、それを可能にしてる。
2年は俺に買われたが俺が留守の時は、それなりの客を取り少しでも稼ぎを増やしてる。
俺だけが胡蝶に浮気を責められる覚えはない。
それでも俺と居る時の胡蝶は俺が他の女を見るのを嫌がる。
胡蝶の部屋に入れば、胡蝶が俺から離れる素振りをする。
「お酒とお食事の用意をさせますから…。」
焦らして俺をその気にさせるのが胡蝶のやり方…。
「禿にやらせろ。」
「でも…。」
「胡蝶が忙しくなるのなら酒も飯も要らね。」
「わかりました。」
胡蝶だけが居れば良いと俺が態度で示せば胡蝶は初めて満足気に笑顔を見せる。
呼び鈴で禿を呼び、用を言い付けながら胡蝶は床の上に座る俺の着替えを禿に見せ付けるようにして始める。
この男が自分の亭主だと言わんばかりの態度をする。
これは、何処の花魁でも同じ…。
新造前の禿は若さだけが武器になる。
自分の固定であった亭主をうら若い新造に取られる老いた花魁や遊女は少なくない。