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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
鈴は有り得ないほど綺麗な顔をした子だ。
所謂(いわゆる)、特別な存在価値がある。
ここで俺が鈴を見捨てれば簡単に売り飛ばされて次の館でも小姓として地獄を味わう事になるのが目に見えてわかる。
「俺から離れるなよ。」
鈴に何度も言い聞かせる。
鈴はただ小さく頷くだけだ。
「そろそろ野営の準備をすべきかと…。」
鈴に過保護になる俺の馬に雪南が馬を寄せて来る。
1万5千になる軍勢の移動は非常に時間が掛かるものだ。
騎馬兵は全体の2割しか居ない。
兵の殆どが歩兵であり、まとまって食を取り眠を貪る為には1万5千の兵が停泊出来るだけの広さがある場所を必要となる。
騎馬だけなら燕まで2週間も掛からない道のりだがバラけて移動すれば山賊や野盗に狙われて無駄に兵を失う愚かな大将の扱いを受ける。
従って早めに野営地を探し夜営が出来る体制を取る。
「斥候を出せ…。」
斥候とは早馬でその地域の地形を調べる部隊。
雪南は俺の命令に従い、すぐに伝令を飛ばす。
野営地が決まれば俺達上級武官の為の幔幕が中央に張られ、その幕を囲うように兵が配置される。
ぐるりと本陣を囲む幔幕の中に大将である俺専用の天幕が張られ俺と鈴はそこに入る。
天幕に入るなり、鈴はいつもソワソワとする。
「また厠(かわや)か?」
鈴が小さく頷く。
鈴には潔癖な所があるのか、道中に俺や雪南が野良小便をすると言っても絶対に参加せず、厠が設置される野営時まで我慢する。
「女子(おなご)じゃあるまいし、野良で小便が出来なければ身体に悪いだけだぞ。」
そうは言っても鈴はイヤイヤと横に首を振り早く厠に行きたいと無言で俺に懇願する。
西元城を出て3日目…。
そうやって鈴が厠を我慢するから雪南に命じて厠の設置を出来るだけ早めさせてある。