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戦場に響く鈴の音
第11章 報告
その顔は恐怖に強張り、引き攣ってる。
何故、鈴がそこまでして怯えてるのか?
俺の子を誰が孕むかという話は鈴には関係のない事のはず…。
「屋敷に入ろう。話はそれからだ。」
鈴を抱っこしたまま玄関口に入れば湯桶を持つ女中が俺の足を濡らした手拭いで拭う。
俺はついでだからと鈴の足を拭ってやる。
相変わらず、主に足を洗わせる偉そうな小性のくせに鈴は俺の着物を握り締めて怯えたまま俺にしがみついている。
そんな鈴を抱きかかえたまま部屋に連れ帰る。
「義父や雪南から何を聞いた?」
俺の質問に鈴が固く口を閉ざす。
「鈴?」
鈴の小さな顎に指を掛けて顔を上げさせれば小さな唇がキュッと頑なに結ばれる。
その小さな唇を指先で撫でるだけで鈴が頬を紅く染める。
まるで女だと思う。
瞼を震わせて目に涙を浮かべる鈴はどこから見ても美しいだけの少女にしか見えない。
その額に口付けをすれば鈴の瞳から一雫の涙が零れ落ち、唇からゆっくりと小さな声が漏れ出す。
「いつか神路は黒崎の為に子を成さねばならない。神路が子を成せば鈴はここに居られなくなる。」
堰が切れたように鈴が泣きじゃくる。
「鈴が居られなくなるって…、誰がそんな事を言った?」
「誰も言ってない。でも…、きっとそうなる。雪南もおっ父も鈴が可哀想だという顔をする。」
「確かに、黒崎の為にいずれは嫁を取る事になる。だからって鈴が俺の小性を辞める理由にはならない。」
「でも…、鈴はきっと神路の邪魔になる。」
自分の思い込みを譲らない鈴が泣き続ける。
既に大人である胡蝶は鈴と同じ事を言うが、鈴のように泣き喚いたりはせずに黙って悲しい瞳を俺に向ける。
鈴は胡蝶のように自分を押さえる事をまだ知らぬ子だった。
自分の思いだけを俺にぶつけて泣き喚く事しか出来ない子を抱いてあやしてやる事しか俺には出来なかった。