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戦場に響く鈴の音
第11章 報告
「でも…。」
鈴が一瞬、躊躇う。
「別にいいよ。雪南と勉強してろ…。」
役立たずな主は諦めて雪南の部屋を出る。
廊下に出た途端、小さな手が俺の着物の袖を引く。
「勉強…するんじゃなかったのか?」
嫌味しか言えない自分が心底から嫌になる。
「鈴が居たら神路は嫌なのか?」
不安そうな声がする。
鈴の方へ振り返れば、案の定、肩を震わせて俯いてる小さな子の姿が目に入る。
未だに、俺に捨てられる事に怯えてる。
もしも、捨てられた場合、鈴は独りで生きていかねばならぬと考えてるからこそ、人一倍の勉強をするのだと雪南が言っていた。
「俺は…。」
もう少し、鈴に信用されたいだけだ。
勉強なんか出来なくとも鈴を屋敷から追い出すつもりもないし、俺に構う時間くらい作って欲しいと思う。
そんな子供地味た事を小さな鈴に言うのが恥ずかしいからと今にも泣きそうな鈴を抱っこして、その頬に口付けする。
「神路?」
「お前…、相変わらず小さいし軽いな。寺子屋で飯はちゃんと食ってるのか?」
「うん…、蒲江の人が鈴の為にお弁当を持たせてくれてる。大河様も仕事が無い時は必ずお菓子をくれる。」
それでも8つになった鈴は俺が8つの時に着てた着物が合わずに小さく作り直して貰った。
そのまま抱きかかえた鈴を俺の部屋まで連れ帰る。
「神路…、鈴は大河様から文(ふみ)を預かってる。」
部屋に入るなり思い出したように鈴が言う。
「お前…、寺子屋からの文は必ず保護者の俺に見せろって言ってあるだろ。」
「違う。寺子屋からの文じゃない。大河様が内緒の文だから神路と2人だけの時に渡せと言った。」
鈴が着物の懐から御館様が書いた文を取り出して俺に渡す。