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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱
「大丈夫、大丈夫だからな…。」
そう呟いて鈴の小さな唇を俺の唇で塞いでやる。
俺が愛してるのは鈴だけだ。
この子が一人前の漢になるまでは俺が育ててやらねばならぬ。
それは親が子に持つ愛情に近いが、この世で唯一、俺の中に芽生えた愛情だった。
何度も鈴に口付けをしては鈴にその尊を伝えてやる。
「お前が一人前になるまで…。」
俺が傍に居てやる。
そんな願いは叶わないと知ってる鈴はただただ涙を流す。
要約、俺自身が鈴を苦しめているのだと理解をしたのは、それから3週間も後の事だった。
婚礼の大名行列はダラダラとしか進まない。
西方の領主の嫡男が嫁を迎えるのだと、西方領地に知らしめる為に行列はあちらこちらに寄り道をして天音へと進んでく。
柊を抜けた後は西元方面ではなく、天音へ向かう街道をゆく。
道中には小さな温泉街があり、そこで現西元城主の直愛と落ち合う事となる。
「黒崎様、此度の婚礼の義…、謹んで御祝いを申し上げます。」
温泉街のちょっとした宿で大名行列を受け入れる為に待ち受けていた西元城主の一行…。
そんな中でクソ真面目な直愛が一番に前へと進み出ると俺の前にひれ伏す。
「風真、西元にはもう慣れたか?」
「若輩の身であるが故、羽多野殿の様には行きませぬ。」
直愛が端正な顔を歪める。
元々が南国育ちの直愛…。
羽多野は代々が黒崎に仕え、天音にある黒崎の訓練所の代表までも務める一門だ。
西元城主には羽多野をという声もあったが、大城主の言葉で奥州の直愛がすげられた事を良くは思わない家臣も居る。
しかしながら老体に近い羽多野よりも、19歳になる直愛の方が黒崎としては使い勝手がいい。
俺が未熟故の決断…。
その未熟さを払拭する為の婚姻…。
伴侶を得て子を成せば、一人前の漢として扱いが変わる。