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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱



たった、それだけの婚姻だというのに鈴はそれを受け入れず、鈴の気持ちを逆撫でするように周りの者達は仰々しく祝いの品を持っては挨拶に現れる。


「神路様…、鈴殿は?」


人懐こい表情は変わらぬというのに、遠慮がちに直愛がおずおずとして聞いて来る。


「さあな、多分…、部屋だろう。」


黒崎の大名行列で貸し切りになった温泉街…。

天音までは後半日程度の距離だというのに、その温泉街で一番大きな老舗旅館で俺や鈴は足止めされる事になる。

母屋は兵士が使い、俺と鈴は特別にあしらわれた離れになる部屋を使っている。

そちら側なら風呂も個室毎に完備されており、俺や雪南、俺を迎えに来た直愛が一般兵士達に気兼ねなく食事をしたり風呂を使う事が出来るからだ。

今回の直愛の伴いは茂吉だが、一般兵士と母屋に居る為にまだ顔すら見ていない。


「鈴殿にも卒業の祝いをと思いましたが…、天音にて落ち着いてからの方が良さそうですね。」


天音での婚姻が決まってから、鈴が拗ねてると雪南から聞いた直愛は寂しげに笑う。


「いや、俺に拗ねてるだけで直愛には普通に接するかもしれん。」


鈴が直愛に普通の態度を取れるなら、食事など直愛に面倒を見せた方が良いと思う。

今の鈴は俺が口をこじ開けても食を取らずに吐き戻してしまうほど神経が細ってる。

雪南は放っておけと言うが、そうは行かないと俺だけが躍起になってるのが現状だ。

直愛を連れ、中庭の奥にある離れへの小道を歩く。


「神路様が婚姻とは…、もう一人前の漢ですね。今なら鈴という小性を従えても誰も文句を言いますまい。」


相変わらず、気遣いの強い直愛が口遊む。


「婚姻なんかなくとも、いずれは一人前と認めざるを得なくしてやるつもりだったがな…。」


俺自身だけで認めさせる方が良かったと駄々を捏ねるガキを直愛が複雑な表情で笑う。


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