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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱
「鈴っ!居るか?直愛が来たぞ。」
離れの入口の戸を潜り、室内への扉に向かって話し掛ける。
「居ませぬか?」
鈴が返事をせぬ事など、よくある事だというのに直愛が怪訝な表情で俺を見る。
「鈴?」
室内への扉を開けても返事はない。
室内と言っても寝室は一番奥にあり、そこまでは襖戸を2回も開ける必要がある。
面倒臭いとは思いつつ、直愛を居間に残して奥へと進む。
「鈴…。」
幾ら呼んでも返事はなく、扉の向こうは無人の部屋ばかりだ。
「風呂かもしれん。少し…、待ってろ。」
直愛にそう言い含めて部屋を出る。
離れの入口から別れた廊下のもう片方の先へと突き進む。
こちら側は食事をする為の部屋と風呂がある。
風呂は山を背にした造りになっており、刺客の襲撃を受けても旅館の裏側へ脱出可能なようにしてある。
まさか、その裏道から鈴が逃げ出したとか考えたくもない不安が頭を過ぎる。
「鈴…。」
風呂の手前にある脱衣場の扉を開けて、少し安堵する。
そこには小さな人影が存在し、いつものように大きな瞳を更に見開き俺の方へ向けている。
すっかり痩せ細ってしまったくせに、風呂の湯で暖められた傷の無い肌は紅潮し、ピンク色に輝きを放つ。
そんな艶めかしい白い裸体に巻き付く長い艶やかな髪…。
金色の大きな眼(まなこ)は喰い入るように俺だけを見る。
震わせた紅い唇…。
「いやっ…。」
そう小さく呟き、股間を両の手で抑え込む鈴が床へとへたり込む。
「すまんっ!」
慌てて脱衣場の扉を閉めていた。
あれは…。
何者だ?
悪い頭で、何度もその言葉を繰り返す。
心の臓が破裂しそうな気がする。