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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱
呆れた雪南が俺の耳を抓り上げる。
「雪南っ!?」
「しっかりして下さい。貴方は黒崎の嫡子です。」
「俺はちゃんとしてる。」
「なら、鈴が女子(おなご)なら、どうするおつもりですか?」
「どうするって…。」
女子は小性になれない。
「だって鈴は梁間の小性だったではないか?」
当たり前を答える俺をますます雪南が哀れむ。
「あれは…、愛玩小性ですよ…。」
こんな時の雪南の冷たい声が自分勝手な俺は嫌いだと思う。
愛玩小性…。
男子(おのこ)だろうが女子だろうが関係ない。
男子なら元服すれば一般歩兵にし、女子なら初潮が始まり次第、花街へと売り飛ばすだけの存在だ。
「そんな事…。」
今更、言われなくともと雪南を睨み返せば
「鈴が女子だという事は、御館様も大城主も皆が知っております。多分、あの茂吉ですら…。」
と自分の目頭を指で押さえながら雪南が頭を振って痛みを払う。
「なっ!?」
「鈴が女子だとという事実を見て見ぬふりしたのは黒崎様だけという事です。」
「俺…、だけ…。」
「鈴を女子だと…、認めたくなかっただけでしょう?あの時の貴方は梁間の愛玩小性を無闇に連れ帰る訳にはいかなかった。だから、あくまでも鈴を男子の小性に仕立て上げ、漢として一人前に育てるのだと無理矢理に思い込むしかなかった。」
雪南が語る事実を否定が出来ずに俯く。
あの時、鈴を女子だと認めれば、あの場で鈴を切り捨てるか梁間討伐の帰還の際、捕虜とした鈴を柊の来栖遊郭へと売りに出す事しか出来なくなる。
俺はそれを認めたくなかっただけなのだと雪南が俯く俺の頭を撫でて来る。
雪南はずっと兄の様な存在だった。
今も、それは変わらないと暖かな雪南の手が俺に伝えている。