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戦場に響く鈴の音
第12章 混乱
鈴は…。
何を望むのだろう?
御館様は俺と鈴の2人で話し合えと言った。
馬鹿な俺は既に嫁を娶る事が決まってる。
「もう、日が暮れる。夕餉の支度がありますゆえ…。」
俺の背中を押す雪南が中庭を抜けて母屋へと帰る。
俺は鈴が待つ離れに帰らねばならない。
遊郭から戻る時よりも鈴の元へ帰る足取りが重いと感じる。
離れの戸を潜り居間へと上がり込めば、部屋の片隅には幼子が踞る姿が眼に入る。
「鈴…、おいで…。」
腕を広げて幼子に向ければ、仔猫の様な仕草で立ち上がる鈴がすぐ様に俺の懐へと飛び込んで来る。
「神路…。」
鈴の頬に涙の後がある。
きっと一人で思い悩んでいたのだろう。
その涙の筋に唇を付けて傷を癒すように舐めてやる。
「少し…、俺と話し合うか?」
そう尋ねるだけで鈴が小さな身体をビクリと強ばらせて更に小さくなろうとする。
女子だと知らないフリはもう出来ないと鈴にも伝わってる。
抱き上げた鈴を居間から奥にある部屋へと連れていく。
寝室…。
旅館が手入れ済の布団へと鈴を降ろす。
「神…。」
今にも泣きそうな瞳で俺を見上げた鈴の唇を唇で塞ぐ。
真っ白な襦袢姿の鈴が布団へと横たわる。
袖から出た細い腕を撫でるだけで鈴が身体を捩る。
「鈴は…、この先をどう生きたい?」
狡いとわかってて俺は鈴に問う。
女子として俺の傍に居たいなら、鈴は俺の妾になるしか道がない。
それは胡蝶と変わらぬ立場…。
花街に売られずとも、扱いは花街の女子と変わらない。
鈴が嫌だと言うならば、義父に鈴を差し出し、蒲江にでも風真にでもくれてやるしかない。
「神路はどうして欲しい?鈴の願いは神路の願いだ。」
狡い俺に鈴の生命の全てを託すと言う。