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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
鈴は俺の質問をゆっくりと考える。
そして…。
「鈴が我慢すればおっ母が食べられる。」
と小さな声で呟く。
「お前の母親が?そんな事を誰が言った?」
「商人と御館様が…。」
鈴は騙されてる。
鈴が大人しく奉公すれば母親が裕福になると吹き込まれた言葉を鵜呑みにしてる。
売り飛ばされた子供が逃げ出さない為の嘘。
鈴の母親には僅かな米と金子で支払いを済ませ鈴とは2度と会う事が出来ぬと言い聞かせる。
母親はそれを受け入れた女だ。
自分の子供を売り飛ばした酷い女の為に鈴は今も必死に生きている。
「なあ、鈴。お前が言うところの御館様だった梁間はもうこの世には居ない。幾らお前が我慢をしてもお前の母親の腹はもう膨れない。」
「だって…。」
「お前は母親に売り飛ばされた。母親はお前が今、どんな生活をしてるかすら知らん。」
「だって…、御館様は…。」
「お前が言う御館様なんか存在しない。」
もう鈴は梁間の物ではないと理解させる。
「なら、黒崎様が鈴の新しい御館様になるの?」
鈴なりに俺との関係を確認して来る。
「鈴は俺の小姓になる。だけど俺は御館様じゃない。御館様と呼ばれるのは城持ちの主か館の当主だけで俺はまだ自分の屋敷を持たぬ身だ。」
鈴は俺の言葉の意味がわからないと首を横に振る。
「黒崎様…。」
「神路だ。」
「神路様?」
「今はただの神路で良い。いずれ鈴が俺に忠義を持つと決めた時に御館様と呼べ。」
忠義が何かを鈴に教える。
御館様も俺にそんな風に教えてくれた。
ひとまず軽い鈴を膝に乗せて鈴の膳から料理を摘み鈴の口元まで運んでやる。
「とにかく食え。自分で食わぬなら無理矢理に俺が食わせる。」
鈴は小さく頷き雛のように俺が与える食事を食う。