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戦場に響く鈴の音
第13章 捕縛
鈴は未熟な俺の為に、黒炎の寺子屋で総代になるのだと人一倍の努力をした。
そうしなければ俺の傍には居られないと御館様や雪南から言われたのだろうと今になって理解が出来る。
あの時の鈴はただ俺と居たいからと何にでも必死だった。
その鈴の努力を認めない人間など俺には必要がない。
それは御館様も同じ意見だからこそ、俺と鈴の2人で話し合って未来を決めろと言われたのだ。
「燕に帰るのは…、滝沢…、お前の方だ。」
刀を収めて、そう命令を下す。
「それは出来ませぬ。某は宰相、宇喜多様の命令に従い…。」
あくまでも宇喜多の命令が俺の言葉を上回ると滝沢は主張する。
俺は所詮、嫡子…。
まだ筆頭老中にはなってない。
ならば…。
「これは西方領主代理としての命だ。倉橋は滝沢の天音入りは絶対に認めない。これは領主代理権限の命として発布する。」
俺は領主の代理権限だけは義父から移行されている。
領主権限の範囲で危険人物を捕縛する等の目的で領土内の移動の制限を強いる権限くらいは持ち合わせている。
領土内の権限については宰相よりも上の命令に当たると大城主が認めている為、滝沢が無理矢理にでも天音に入れば捕縛対象となる覚悟が必要となる。
「どのような罪名にてでありますか?」
滝沢がニヤリと嫌な笑みを浮かべる。
秀幸め…。
予め、滝沢にくだらない知恵を付けてから送り出したと悟った。
この筋書きは秀幸の書いたシナリオ通りの展開らしい。
由との戦から1年…。
俺の婚姻まで、全ての筋書きを宰相として秀幸は描いている。
解せないのは、秀幸が何故にそこまで鈴の存在に拘るのか?
あの日、初めて登城させた鈴をじっと見つめていた秀幸の姿を思い出す。
確認の為に鈴の方へとチラ見をすれば相変わらずの無表情のまま、黙々と飯を食らってやがる。