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戦場に響く鈴の音
第13章 捕縛
これだけの騒ぎだというのに、全く動じる事なく鈴は俺の命令だけに従ってる。
今夜の宴で俺は鈴と約束をした。
俺の傍に居る限り、鈴はしっかりと飯を食うという約束…。
俺が鈴の傍から離れぬ限り、鈴は黙って飯を食う。
主との些細な約束を必死になって守ろうとする小さな小姓に思わず笑みが溢れる。
ふと鈴が箸を止める。
「神路…、もう入らない。」
鈴が俺の方へ顔を向ける。
こんな落ち着かない状況だというのに腹がいっぱいだと偉そうに言う小姓はこの世で鈴だけだと笑うしかない。
「そうか…、おいで…。」
俺が両手を広げれば、仔猫が俺の腕の中へと飛び込んで来る。
「雪南っ!」
ここまでは秀幸のシナリオ通りだとするならば、俺は雪南を使ってシナリオを書き換える。
雪南の能力だけはあの秀幸であっても安易に予想が出来るレベルではない。
「滝沢を天音入りさせない理由ですか?」
嫌そうな表情の雪南が俺に確認する。
俺の軍師であり目付け役として存在する雪南も鈴と同じく偉そうな態度を崩さない。
「相応の理由があるか?」
俺の問いに雪南が余裕の顔をする。
「そもそも、 黒崎様が騒がずとも私の方で此度の婚礼の進行役を務める滝沢殿にはここに留まって貰うつもりでしたよ。」
「その理由は?」
「黒炎から出された婚礼予算、それに道中で届いた祝い金子などの一部が紛失しておりますからね。」
「間違いないのか?」
「蒲江は黒崎の台所番ですよ。黒崎に入る金子の全てを帳簿に付けて記録しております。」
今日一日、雪南が旅館の台所に籠った理由は帳簿が合わない為かと納得する。
小銭1文だろうと僅かな狂いを認めない台所番は蒲江くらいだと義父がよく言っていた。