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戦場に響く鈴の音
第14章 護衛
たかが5人の従者に2000の兵を構えた臆病な漢だと、笹川は笑ってるに違いない。
「寺嶋…、やはり警護が多過ぎる。」
俺のため息に寺嶋は狼狽える。
「お言葉を返すようですが、姫はあの万里の娘でありますから…。」
これは羽多野の言い付けだと寺嶋は引くつもりは無いらしい。
「もう、良い…。姫は離れの方に滞在か?」
屋敷内の状況の確認をする。
この天音の別邸には湖に沿った母屋から森側へ向かう渡り廊下の先に離宮がある。
昔、義父の亡き奥方が使っていた離宮…。
身体が弱く、湖からの冷たい風ですら風邪を拗らせたりする奥方の為に、義父がわざわざ建てた離宮だ。
今や主の居ない離宮は薄暗い森に静かに佇まうだけの場所であり、森側を兵が囲めば完全に隔離する事が出来る。
2000の兵のうち、1500は確実に森の中で張り巡らされている以上、笹川の姫とて由に密書を送る事など不可能になる。
「先週から離宮の方へ…、あちら側へは黒崎様の到着が既に知らされております。」
寺嶋はそう言うが、俺が来た事を知っても今の彩里は離宮から出られない立場であり、挨拶すらままならない。
想像以上にとんでもない婚姻の儀になりそうだと笑うしかない。
「寺嶋、離宮の警備兵は好きにすればいい。ただし、母屋の兵は少し減らしてくれ。俺の小姓が嫌がる。」
鈴の為に、兵の数を減らしたい。
待ってましたと言わんばかりに寺嶋が自分の横に控えてた男装の女子を前に出す。
「これは、私の娘、寺嶋 多栄(たえ)と申します。多栄は今年で13になりますが、学や女子としての嗜はからっきしで、羽多野殿より剣を仕込まれた女子であります。」
寺嶋の紹介にスッキリとした面持ちの多栄は背筋を伸ばし、自信に満ちた笑顔を見せる。