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戦場に響く鈴の音
第2章 登城
それでも鈴は俺にしがみついて啜り泣く。
普通に生きる事を知らない子供…。
何から教えてやればいいのか俺自身にもわからん。
「鈴は俺にそういう事をさせたいか?」
「神路に?」
「梁間が鈴にしたような事だ。」
「でも鈴はその為の小姓だと言われた。」
「それは違う。小姓とは忠義を育てる為の存在だ。俺は御館様の小姓として、それを学んだ。」
「神路も小姓だったのか?」
鈴が眼を見開く。
大きく睫毛の長い瞳…。
少し金色に光る不思議な瞳…。
鈴が少しばかり俯けば赤身を帯びる黒い髪がはらりと落ちて鈴の瞳を覆い隠す。
鈴は由と冴の特徴を持つ。
おそらく、両親のどちらかが混血だったのだろう。
蘇の人間は国旗が示す通り、黒髪に黒の瞳が当たり前になる。
俺は黒髪に黒い瞳だが、身体の造りは无に近いと御館様が言う。
南にある蘇の男は直愛のようにスラリと長い手足を持つ痩せ型の男が多い。
俺の身体は北国に位置する无の男のように筋肉が発達して直愛に比べればかなり太い手足になる。
身長も直愛や雪南に比べて一回り以上は高い。
こんな混血は別に珍しい事では無い。
西の由と常に戦を構える蘇ではあるが東の冴とは同盟関係を結んでおり、御館様の正室は冴の大城主の姪を貰い受けている。
冴の特徴は赤毛が多く御館様の娘もやや紅を含む黒髪をしてる。
俺の目には御館様の無邪気な娘と鈴の姿が重なって見える。
鈴だって普通の暮らしを知れば、御館様の娘のように笑って過ごせる日が来るはずだ。
鈴の髪を撫でて話をする。
「俺は由の野盗に育てられたんだ。」
鈴に俺が何者かを話してやる。
俺は鈴のように母親なんか知らん。