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戦場に響く鈴の音
第14章 護衛
「女子なのか?」
偉そうな小姓は主の耳元で小さく囁き、聞いて来る。
「そうだ。多栄は女子だ。」
「なら、鈴と同じように神路の小姓になるのか?」
不安そうな声…。
背にしがみつく鈴を前に抱え直し膝に座らせれば、泣きそうな顔が俺の顔を覗き込む。
「多栄は俺の小姓ではない。俺の小姓は鈴だけだ。ただ、俺も婚礼で何かと忙しくなる。その間に鈴が寂しい思いをしない為の遊び相手だと言ったろ?」
「遊び相手…。」
怯える仔猫は情けない表情で多栄をチラ見する。
「多栄…、鈴の傍に居る時は甲冑を外して刀を下ろしてやってくれないか?」
戦場で兵士に乱暴な扱いを受けた鈴は多栄の姿だけで怯えてる。
「刀を…、ですか?」
「鈴が慣れるまでの事だ。」
慣れた人間に対してなら、刀を差してようが甲冑を着てようが鈴には関係がない。
要は多栄に慣れる時間だけが必要だという事だ。
「鈴、俺は雪南と少しばかりの仕事がある。いい子にして多栄と待ってろ。」
俺の言い付けに仔猫が牙を剥き、爪を立てる。
「仕事って何だ?神路は何処に行くつもりだ。」
いつだって俺に置いて行かれる事を嫌う。
「俺は嫁に会う為に離宮に行くんだよ。流石に鈴を連れては行けない。日暮れまでには戻るから夕餉の用意は鈴がしてくれよ。須賀や寺嶋の分の酒もだ。鈴は小姓としての仕事をしろ。」
鈴の頭をひと撫でしてから、しがみつく鈴を引き離す。
「神路…。」
情けない仔猫が眼に涙を浮かべる。
「さあ、鈴様…、多栄に、この屋敷の中を案内して下さいまし…、多栄には初めてのお屋敷でありますから…。」
屋敷警護を務める予定の多栄には、この屋敷の見取り図が隅々まで頭に入ってるというのに、俺から鈴の気を引く為だけにと多栄は囁かな嘘を吐く。