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戦場に響く鈴の音
第16章 意地



自分の部屋を雪南と出て、御殿の方へと歩き出す。

天音は別邸とはいえ一応は黒崎の武家屋敷…。

先ずは、玄関口から母屋となる御殿が有り、来客などの対応等は全て御殿の表座敷で行う。

今夜の様な宴の類いも、その表座敷で開かれる。

当然、台所は御殿に設置されている為、女中や庖丁人が控える部屋も御殿内に存在する。

御殿から左右に別れて湖側の奧殿に俺や鈴が生活する部屋が有り、森側が彩里の控える奧殿となる。

屋敷で雇用されている者の住まいは庭にある長屋…。

黒崎家臣の蒲江とはいえ家族同然の雪南は俺と同じ奧殿の一室を使ってるが、須賀や直愛のように黒崎の客人扱いとなる人物は全て御殿にある個室が割り当てられる。

まあ、一度寝たら、なかなか起きない俺の為に雪南は俺の部屋に一番近い部屋を使ってるというのが正しいのかもしれん。

欠伸をしながら御殿へ続く廊下を抜け、先に台所へ向かう。

台所の入口に立つ多栄の姿が眼に入る。


「御館様…。」


多栄は父親である寺嶋のように仰々しく跪き臣下の礼を取る。


「鈴は中か?多栄は入らぬのか?」


俺の質問に多栄がそばかすの浮き立つ鼻の頭に皺を寄せる。


「自分はこのような場が苦手なもので…。」


台所は苦手なのだと多栄が嫌そうに答える。

寺嶋が言うように、多栄は本当に女子としての振る舞いが苦手な子らしいと鼻で笑ってやる。

台所の入口からは蒲江の庖丁人達が作り出した料理を次々と運び出す女中や酒の用意をする女中達の姿が見える。

まるで戦場のようだ。

多栄の言うように迂闊に踏み込めば、邪魔だと庖丁人達を怒らせそうなほどに台所の中は殺気に満ちている。


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