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戦場に響く鈴の音
第16章 意地
「忙しい庖丁人に子守りを任せてしまい、申し訳なかった。」
雪南が兄である斉我に他人行儀に言う。
「鈴は台所のお手伝いをしたのだ。子守りをして貰ったのではない。」
雪南の言葉に俺にしがみついたままの鈴が口を尖らせる。
雪南と鈴の囁かな、いがみ合いに斉我が苦笑いをする。
「鈴様は、包丁の扱いがとてもお上手でした。なんなら、蒲江の一門に入り庖丁人として学びますか?」
冗談だとは思うが斉我がそんな事を鈴に問う。
「鈴は…。」
戸惑いの表情を見せる鈴が俺を見上げる。
今は俺の傍を離れる事が鈴の唯一の不安になる。
そんな鈴を抱き上げてから
「斉我、今はこの台所で鈴が学びたい事だけを教えてやってくれれば良い。鈴はこの屋敷の主として未熟な俺の身の回りの世話をするのに忙しい身だからな。」
と斉我に鈴を蒲江に出すつもりがない事を伝えてやる。
斉我は柔らかな笑顔でふふふと笑う。
「黒炎では野良犬のように牙を剥いて私に噛み付こうとした黒崎様が…、立派な御館様に御成りあそばしましたな。」
と斉我が懐かしげに呟く。
「大河様にだけでなく、斉我にも噛み付こうとしたの?」
可愛い鈴が訝しげに俺を睨む。
「今の鈴よりもガキだった頃の話だ。」
「神路は今も子供だ。」
「鈴ほどじゃねえよ。」
「鈴はもう大人の女だ。その事は神路が一番良くわかってるはず…。」
俺との繋がりをあけすけに口にしようとする鈴の口を慌てて塞ぐ。
「はいはい、2人共…、もう大人だと言うのならば広間で客人が待ってる事をお忘れなく…。」
一番、大人である雪南が俺と鈴を叱る。
台所の入口で雪南の説教は御免だと鈴を抱えたまま広間へと逃げ出せば、多栄や雪南が肩を竦めてついて来る。