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戦場に響く鈴の音
第16章 意地
広間の入口まで進めば左右に別れて座る黒崎の家臣と宇喜多の家臣が俺の為にひれ伏する。
今はまだ30人程度しか集まっていないが、ひと月後の婚礼の儀の宴では100人近い人数が顔を出す事になる。
鈴を抱えたまま広間の真ん中へと突き進む。
宇喜多の家臣の反応を確認する為にチラ見するが、宇喜多家臣はまるで黒崎家臣のように俺がこの屋敷の主だという態度のまま、下げた頭を誰も上げようとはしない。
そもそも、宇喜多の家臣とはいえ、随分と下っ端ばかりの家臣だ。
自分の出世の為なら黒崎に寝返ってもおかしくない様な家臣ばかりがこの婚礼の儀に参列したと思われる。
そんな中途半端な家臣達の手網を握っていた滝沢が消えた今となっては若き黒崎を主に仕える須賀や蒲江、風真に付いて確実に出世が出来る路を模索してるようにも見える。
潔癖な性格の秀幸は家臣の裏切りを許さない。
裏切られるくらいなら、こちらからくれてやるという態度で恩を売ろうとするのが秀幸だ。
そんな恩を買う気がない俺は宇喜多家臣に声を掛けてやる事はなく主が座る上座へと向かう。
「く…ろさき様…。」
上座で俺を待っていた須賀が生唾を飲み込む。
今夜の主役はある意味、須賀のもの…。
黒崎の婚礼の儀の進行役として、須賀には主である俺と並ぶ事が許される。
「落ち着かぬか?須賀…。」
俺用に用意された席に座りながら、俺から見て右側に座る須賀に聞いてみる。
鈴は俺の右後ろにある自分の席へ着く。
「この様な席では、本来の私はあの辺りに居るのが当たり前ですので…。」
とひれ伏を続ける家臣達の方へと須賀が視線を向ける。
今までの須賀の位置ならば蒲江、風真よりも下で寺嶋の前辺りになる。